いきなり古臭い話で恐縮なんですが、『ウルトラセブン』見たことありますか? ご存知の方も多いでしょうけど(多いのか?)、セブンはウルトラシリーズの中でも異色の存在なんですね。変身ヒーローものの子供番組なのに、ストーリーがめちゃめちゃ硬派で社会派なんですよ。このセブンで繰り返しテーマに取り上げられているのが「正義とは何か」って命題ですね。有名なエピソードを2、3、紹介しましょうか。しかし幾分記憶が曖昧なので(30年以上前の番組ですからね)セリフやストーリーが間違っている部分があるかもしれません。あんまり突っ込まないでくださいよ?
第6話「ダークゾーン」……ペガッサ星人は故郷の星が滅亡の危機に瀕していて、移住先を求めて地球に侵略してきます。当然セブンは地球を守るためにペガッサ星人と闘うわけですけど、仮にセブンが勝ったら、何10億人といるペガッサ星人達は住む場所を失って滅亡してしまうわけです。やむにやまれず地球まではるばる侵略しに来てはいますが、このペガッサ星人は非常に紳士的な人たちでして、あんまり粗暴な振る舞いはしないんですね。それでセブンは苦悩するわけですよ。「私が命を賭けて守っている地球人は、果たして守るに値する生物なのだろうか? ペガッサ星人たちを全滅させる権利が私にあるのだろうか」と……。
第8話「狙われた街」……メトロン星人はタバコの中に粒状の薬を仕込んで人間を発狂させる作戦をとりました。タバコを製造する段階で薬を入れておくんですね。これを知らずに吸った人間は、凶暴になって殺人を犯したり、自殺したりするんです。そうやって自分の手を汚さずに内部から人間社会を崩壊させていくという方法を取ったわけです。メトロン星人はセブンと四畳半の畳部屋(!)で話し合いの場を設けます。以下はメトロン星人のセリフをかいつまんで要約したものです。「君はなぜ地球人を救おうとするのかね? この星の人間たちは環境を破壊し、人間同士で殺し合いをし、いずれ放っておいても自滅するだけだ。私はそれを早めるためにちょっとした手助けをしてあげているに すぎないんだ。セブンよ、私の邪魔をせずに黙って見ていなさい。君のやっていることは無駄なことなのだ」セブンは結局メトロン星人を倒しますが、心にひっかかるものを感じるわけですね。ちなみにこの回は戦闘シーンが幻想的で、まるで子供番組の範疇からは逸脱した大人のストーリーになっています。
「ウルトラセブン」にはあまり怪獣が出てきません。ほとんどの回で「○○星人」という、ちゃんと意思と人格(?)を持った相手が敵として現れます。最後にご紹介するのは最高傑作の誉れ高い(そんなたいしたもんじゃないと思いますが)第42話「ノンマルトの使者」です。
海から現れたノンマルトは、自分達こそ この地球の先住者であると主張します。元々地上に住んでいたのに、人間達によって海に追いやられたのだと……。自分達のふるさとを取り返すために、悠久の時を超えて今再び地上に帰ってきたのだと……。セブンは混乱します。自分が守ってきた地球人は、実は今まで闘ってきた相手と同じで、元は単なる侵略者だったと言われたのですから。正義とは何なのか、自分は何の為に闘っているのか、アイデンティティの揺らぎを感じつつも、またセブンは敵を倒すんですね。まあ セブンが「よし わかった! 君の好きなように地球を取り戻したまえ」とか言ったら番組として成り立たないわけですが……。
こういう骨太なストーリーがセブンの真骨頂です。私も初めて見たときは(物心つくか つかないかって頃ですね)わかりませんでしたが、何度か再放送を見るうちに子供心に「宇宙人がかわいそう」とか「セブンは敵を倒したけど、それは正しいことなんだろうか」とか考えるようになりましたね。正義の相対化というものに初めて触れた作品です。
誰しもこういう「正義の相対化」に触れた最初の作品は心に残っているみたいで、世代によってそれは『機動戦士ガンダム』だったり、ジンガイのガキだったら『スパイダーマン』や『SPAWN』だったり、ミステリーマニアだったらエラリィ・クイーンの一連の作品群だったりするわけです。ごく最近だとどんなものがあるんでしょうね。誰か教えてください。
ガンダムがわかりやすいかもしれないのでガンダムの話にしましょうか? 私がコレを見たのは小学校高学年だったと思いますが、とにかく衝撃を受けました。主に「リアルっぽさ」にです。作品の世界を成立させるための道具立てがすごく「リアルっぽ」かったんですね。
よく考えれば人間型ロボットなんて必要ないわけですよ。戦闘機飛ばせば戦争はできるんですから……。あのロボット(モビルスーツ)を出したいがために、レーダーを無効にする(=白兵戦を余儀なくさせる)道具を出してきたトコロが用意周到と言うかSF的律儀さと言うか、カッコよかったんですね。シビレました。ちょっと脱線したんで話戻しましょう。
『ガンダム』があれだけ後世に残る傑作と言われている原因の一つはやはり「正義の相対化」を子供達に提示したからだと思うんですね。敵であるジオン軍にも敵なりの正当性というか、論理があるわけです。つまりお子様向けにガンダムが正義で、ザクが悪っていう簡単な二元化をやらなかったんですね。これは戦争なんだから当たり前です。どっちかが悪者でどっちかが正義なんてことは戦争では有り得ないんですから。でもそれを子供向けアニメ番組でやったということは当時画期的な出来事だったんですね。
この時代に多感だった世代、つまり今の20代後半から30代前半の人はほとんどガンダムファンと言っても過言ではないですね。これを読んでるあなたも身に覚えがあるでしょう? フフ。
さて相対化された正義の行き着くところはどこなんでしょう? 苦悩するヒーローは自分の終わりなき戦いにどんな結論を持ってくるんでしょう? ここらへんがすっきりしないところですよね?
さあ、あまりに長い前フリにウンザリしてきたあなた、やっと本題の近くにやってきましたよ。ウヒ。でももう少し前フリです。アハハ。
センデロ・ルミノソって知ってますか? 「輝ける道」って日本語で訳すんですけど。これは南米ペルーのゲリラ組織の名前です。つい何年か前に最高指導者のアビマエル・グスマンが当局に逮捕されて弱体化しました。そのせいもあってかトゥパクアマルの大使館襲撃なんて事件がおきたわけなんですが、あなたはこういった、「反政府組織の指導者がついに逮捕!」なんて記事を見るとどういう感想をいだきますか? 私は当時(1992年だったかな?)「ああ……、何だか悪いことをやってるヤツが逮捕されて罰を受けるのだな。これで地域の住民は安全になるのだな」というアホみたいな感想をいだいたのを覚えています。ほんとアホですね。
というより、マスコミの書き方にもよるんですけど「反政府組織=悪者」みたいな考え方がすっかり頭に染みついちゃってたわけです。「政府=正義」と言い換えてもイイでしょう。ガンダムやセブンで培ったモノの見方がすっかりケシ飛んでたんですね。私はなにもセンデロ・ルミノソを擁護したり、支援したりする気は毛頭ありませんけど、現地の住民の中には当然、センデロを「救世主」と信じて応援したりする、普通のおじいちゃんとかがいるんです。あるいは政府を心から憎んでいる14歳の男の子とかがいるわけですよ。こういう事実に目を向けないでただ単に「ゲリラ=なんか過激なことやってる悪いヤツ」っていう公式が浮かんできちゃうのは、やっぱりちょっと問題ですよね。
こんなアホアホ化していた私の頭をガーンとやってくれたのが船戸与一の「砂のクロニクル」です。(やっと小説の名前が出てきました。アハハ)
この作家はデビュー以来ずっと少数民族の独立なんかを扱ってきた硬派の冒険小説家です。といっても、小難しいことはあんまり考えなくてもいいんですけどね。そういう、作品の背景に目を向ける読み方もあるし、主人公のカッコよさに自分を投影して楽しむって読み方もあるわけですから。だいたいこの人の小説は、タフな日本人の主人公が外国で傭兵をやったり、武器商人をやったりして、自動小銃ぶっぱなして敵をなぎたおしていくっていう、小難しいこと抜きにスカッと読めるものが多いです。
「砂のクロニクル」は中東のクルド民族の独立運動やイランの革命防衛隊と反政府組織との確執なんかが描かれています。クルドの歴史にも当然触れるんですけど、こういうの読むとどっちが正義でどっちが悪なんて考え方はホントできなくなりますね。それぞれの立場によって正義なんてモノはいかようにも変わるんだってことがこれでもか! と描かれています。ただこの人の小説に出てくる登場人物たちはさっきあげたような苦悩するヒーロー像とはちょっと違っています。自分の信じるモノに対して迷いがないんですね。こういうまっすぐな人たちってのは、時に狂信的で空恐ろしく感じることもありますけど、小説なんかで出会う分にはある意味純粋で美しく感じます。と言うか、読んでいて爽快です。「苦悩するヒーロークソ食らえ! ウジウジ悩んでるヒマがあったらさっさと行動しろ!」って気がするのです。
しかし! 船戸与一の小説を読み終わると、こういうヒーローの活躍に目を奪われつつも、自分の中に例えばゲリラ組織だとか、少数民族だとか、普段自分がおかれることのない世界の人たちの視点をいつのまにか獲得しているのです。つまりアホアホだった自分がほんの少しお利口さんになっているんですね。本を読む楽しさのひとつは、こういう新しい視点を手に入れられることだと思います。
さて船戸与一の作品にはもうひとつ絶対見逃してはいけない大傑作「猛き箱舟」があります。こちらはさらに小難しいこと抜きの、手に汗握る復讐劇です。「砂のクロニクル」がキツイようだったら、こっちを読みましょう。まあ「猛き箱舟」も相当な重さですけど、歴史とか民族なんかの背景があまりないので楽々読めると思います。
1944年山口県生まれ 早稲田大学法学部卒 1985年「山猫の夏」で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会賞と受賞。1989年「伝説なき地」で日本推理作家協会賞を受賞。1992年「砂のクロニクル」で山本周五郎賞を受賞。
新潮文庫(上下巻)おすすめ度 ☆☆☆☆ 武器欠乏に悩むクルドゲリラに2万挺のカラシニコフを手渡すため、ホメイニ体制下のイランにしのびこんだ日本人武器商人「ハジ」の暗躍を描いた大長編
集英社文庫(上下巻)おすすめ度☆☆☆☆☆ 死神のような顔をした隻腕のテロリストはなぜ復讐の鬼と化したのか。一人の若者が灰色熊と呼ばれる非合法員と出会い変容していくさまを描いた傑作。 コレを読まずして何を読む!
1967年10月1日〜1968年9月8日放映。TBS系ウルトラシリーズの第3弾。近々DVD版が出るらしいのでプレステ2でも買って(DVDプレイヤーとして使えるそうです)見ましょう。
1979年4月7日〜1980年1月26日放映。今も人気は衰えていないですがやはり初代ガンダムは格別ですね。なんとかして見てください。
1992年仲間のアーティスト5人とマーヴェルを離脱した トッド・マクファーレン(Todd McFarlane)によってかかれたコミック。日本語版は 1998年5月主婦の友社より刊行
従兄弟同士のフレデリック・ダネイ(1905〜1982)とマンフレッド・B・リー(1905〜1971)の二人が用いたペンネーム。1929年『ローマ帽子の秘密』でデビュー。バーナビー・ロスという別名で『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『ドルリイ・レーン最後の事件』を著す。ハヤカワ文庫や創元推理文庫で読めます。