金を使わないプレイというのはどうしても雑になる。僕と隊長は来る日も来る日も『ドルアーガの塔』をやりつづけたが、どうしても解けない謎がいくつかあった。宝箱の出現方法もなかなかわかりづらかったが、その宝の効果がまた難しかった。「特定の敵に対して無敵になる」というネックレスを手に入れたとしても、その敵にぶつかってみなければ効果が確認できない。ぶつかれば主人公は通常死ぬので、普通はそんなことは試さない。ゆえにネックレスの効果はいつまでたっても気付くことがないのだ。また、決して取ってはいけない宝というものもあった。「ポーションオブ・エナジードレイン」と呼ばれるその宝は、出現させても取ってはいけないのだ。取ると主人公の体力が著しく低下して死に至る。しかし、やっとの思いで出現させた宝を取らずに先に進む者などいるだろうか? 敬意をこめて言うが、『ドルアーガの塔』は見事なまでに何のヒントもない、イカレたクズゲームだった。そして僕らはこの愛すべきクズを攻略するまでは絶対に退かないと決意していた。バカげた「自分との闘い」だった。
「馬場に行ってみようか? 」
ナムコが直営するゲーセン「キャロット」はコアなゲーマーたちの聖地だった。隊長と僕は都内でも有数のつわものどもが集まるという、高田馬場のキャロットに遠征してヒントを探しに行くことにした。自分で攻略せずに人のプレイを盗むのには気がひけたが、背に腹は変えられない。僕らが持っている情報と交換に、新たな情報を仕入れるのは決して負けにはならないという屁理屈を作って自分を納得させた。
キャロットには確かにすごいゲーマーがゴロゴロいた。自信過剰の隊長すらも「こいつらにはちょっとかなわないかもしれない」と弱音を吐いていた。僕にいたっては単なるおのぼりさんで、全くお話にならない。僕らはおずおずと『ドルアーガの塔』のそばに近寄って、上級者のプレイを盗み見ようとした。しかしキャロットの常連は筐体の周りを取り囲んで、僕たちよそ者には決してプレイを見せようとしない。こちらは見せてもらう立場で決して強く出れるものではなかったのだが、僕はイライラがつのって爆発寸前だった。隊長が察して声をかけてきた。
「ダメだね。こいつら絶対に見せないつもりだよ」
「ああ わかってる。だけどよ、俺らだってそれなりに情報はもってんだ。それと交換に見せるくらいいいだろうが」
「ゲーマーなんてみんな閉鎖的なんだよ」
「くそっ! むなくそわりい」
僕らは帰りがけ、店の外でキャロットの常連ゲーマーの1人を待ち伏せて血祭りにあげた。もっとも隊長の方は腕っぷしはからきしだったので、ほとんど手を出さなかったが……。ゲームをやっているときは生き生きとしていた常連の顔が情けなく苦痛に歪む。もう少し腹いせに痛めつけてやろうかと思っていたら、殴られてヘロヘロになった常連が、頼みもしないのに小さい単語帳のようなものをよこした。僕らがノドから手が出るほど欲しがっていた、宝の出現方法と宝の効果を書いたメモだった。60面全部が書いてあるわけではなかったが、僕らの壁になっていた部分が見事に攻略されている。
「隊長、どうする?」
「帰るか? あはは」
ゲームのためなら人も殺しかねないバカだった。
それから2週間ほどかけて、僕らはドルアーガの謎の全てを解き明かした。都内でも結構早い部類に入るはずだ。馬場で手に入れたメモ帳の間違いをも発見した。ゲーム雑誌に攻略法が載る、2ヶ月以上もまえだった。60面全ての宝の出現方法と、宝の効果を書きこんだ自作のメモ帳は文字通り僕らの宝物になり、攻略が終わってからも嬉々としてメモを見ながらドルアーガをプレイしつづけた。思えば一番幸せな時代だった。