懐古回顧録 8

『ドルアーガの塔』をやった回数というのは正規に金を払っていたとしたら一体いくらぶんくらいになっていただろう。どんなに少なく見積もっても50万円はいく計算だ。そしてそれ以降も僕は、一切金を払わずにゲームをやりつづけた。だがしかし、幸せな時間というものは長くは続かない。

高校受験を間近に控え、僕はストレスがたまっていた。勉強しなければいけないと漠然と考えつつもやることといえばゲームだけ。魔法の鍵のおかげでゲームはいくらでもできる状況にある。だが同い年の隊長は、どうやら受験のためにゲーセン通いを控えているらしい。そのことも僕の焦りを助長した。今日こそは勉強しようと思いつつ、気付けば深夜までゲーセンに居座っている。焦りのせいなのか指先がチリチリ焦げるような、妙な感覚がいつもつきまとっていた。

そんな雰囲気を感じ取ってか、ゲーセンの知り合い連中は僕に話し掛けてくる回数がめっきり減ってきたようだ。なんとなくポパイに居づらい感じをもった僕は、家から一番近い「ラビット」というゲーセンに入り浸るようになった。ここは地元で一番さびれている小さなゲーセンで、ヤクザが経営する店だった。地元のお祭りの屋台でよく見る男が大体店番をしている。テキヤというヤツかもしれない。ゲームのことを全くわかっていないので、店内のラインナップはお寒いの一言だった。これではガキは寄り付かない。でもその頃の僕にはお似合いだと思った。1人孤独にゲームをやる自分を、自虐的な目で見つめるもう1人の自分がいた。

夕方の人がまばらになる時間、ラビットには僕ともう1人の男しか客がいなかった。男の顔には見覚えがあるが、誰だか思い出せない。どこかで会ったのだろう。身長は僕よりも低く、リーゼントでイキがっているがどう見ても弱そうな男だった。気持ちがささくれだっていた僕にはそれ以上モノを考える余裕がなかった。ポパイなら知り合いに回りをかためてもらって筐体をあけるし、知り合いがいないときは誰にも見られていないときを狙うのだが、どうにでもなれという気持ちになっていた僕は、その男を意に介さずに、無造作に筐体を開けた。

「おい! おまえ何やってんだ! その鍵どっからパクった!?」

時代遅れの「ツッパリ」と呼ばれる部類に属するその男は、いきなり大声をあげた。僕は一瞬頭がカラになって呆然としてしまった。本当なら一目散に逃げるか、そいつを殴っておとなしくさせなきゃいけないはずだったのに。僕はその男とまともに対峙してしまった。

「おまえ中学どこだ」
「東中……」
「じゃあ ヒガシダとタメか」
「……(うなずいた)」
「俺はヒガシダの1コうえのトリウミってもんだ」

僕の中学の卒業生だったようだ。どうりで顔に見覚えがあるわけだ。東中のアタマ、ヒガシダの名前はこんなところでも出てくる。まるで自分の無名さを、ヒガシダを知ってることで埋めようとするかのようにトリウミはまくしたててきた。僕は無言で隙をうかがいつつ、視線をはずさないようにした。

「おまえこんなことしてタダですむと思ってんのか? ああ? 後輩だからって容赦しねーぞコラ。俺はここのおっさんに世話になってるからよ。見過ごすわけにはいかねーんだよ」
「……。」
「おまえヒガシダと仲いいのか? 黙ってねーでなんか言えコラ」

怖れている。この男は僕が立ち上がって歯向かってくるのを怖れていた。その後もグダグダと、俺はヒガシダが3人がかりで来ても負けないだの、ヒガシダの仲間なら手荒な真似はするわけにはいかないなだの言いつづけた。こいつなら負けることはないと思った。黙ってイスに座ったまま、この男をどうやって言いくるめようかと考えていると、運悪くこの店の店番が帰ってきた。僕はそのときようやく、この鍵は取ってはいけない宝、ポーションオブ・エナジードレインだったのだと気付いた……。

つづく…(N)
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