「今日はありったけの知識を総動員するぞ」
「あんまり覚えてないんだけど、ラーメンマンだったかな?小さい頃から毒に手を浸して修行を積んだので、自分はその毒にはやられないけど、相手はラーメンマンの手に染み込んだ毒で死んじゃうっていうのがあったね」
「ああ、子供騙しの嘘だ」
「へえ あれは嘘なんだ?」
「まあ 毒の種類にもよるのかもしれないが、致死量というのは限界があって、いくら修行を積んだからといって、人間の体がそんな都合よく毒に慣れるということはない」
「ラーメンマンは人間じゃないしね 笑」
「君はいわゆる覚醒剤をやったことがあるか?」
「あるわけない」
「そうか。やらないに越した事はないが。ドラッグなどと総称されるものは総じて致死量が低い。ほんのちょっとの量でも死んでしまう」
「あ わかった」
「何がわかったんだ?」
「耐性ってやつでしょ?クスリを継続して使ってると、人間の体は耐性を持つんだよね?最初はちょっとの量でも効いていたのに、段々同じ量では効かなくなるんだ。で、量が増える」
「そう。耐性と致死量は単純な比例関係にはない。いつか耐性が致死量を上回る時が来るんだよ。つまり、死んでしまうくらいの量を使わないと効かなくなるわけだ」
「なるほどなるほど。そいつは怖いね」
「塩は人間の体に不可欠だが、摂りすぎればやはり死ぬ。およそ口に入るものはほとんど全て薬としての効果と毒薬としての効果があるな。量の問題だ」
「経口は比較的作用が穏やかだよね」
「ああ、例えば覚醒剤を経口で使用するのと、静脈注射で使用するのでは天と地ほどの差がある。君の言うとおり経口や粘膜を通しての摂取は比較的作用が穏やかだ。まあ当たり前の話だな」
「致死量がないドラッグってのはないのかな?なんていうか安全なやつ」
「マリファナなんかはそれに当て嵌まるかもしれないね。しかしマリファナ自体で死ななくても、ラリって車で事故れば死ぬんだ。安全なものなど何もない」
「確かに。アルコールも同じ事がいえるよね」
「馬鹿な。アルコールはもっと悪質だ。致死量も低いし、継続使用は必ず内臓にダメージを与える。ろくなドラッグじゃない」
「ふーん。じゃ君はアルコールはやらないんだね?」
「いや やるが」
「うへ、なんだよそれ。じゃあタバコは?」
「タバコは最も悪質なドラッグだな。耐性が出来上がる時間が桁違いに短い。なんと生まれて初めて吸った最初の1本で、もう耐性が出来てしまうのだ。でもやるよ」
「…。一体君はドラッグ擁護派なの?それともドラッグ反対派なの?」
「どちらでもない。そういう分類は全く無意味だ。君は風邪薬擁護派か、風邪薬反対派かと聞いているようなものだ。風邪をひいたら風邪薬を飲むし、ひいていない時は飲まない。他のどのクスリでもこのスタンスは変わらない」
「じゃあ マリファナを必要とする時はマリファナを使用するってこと?」
「マリファナを必要とすることなんかないだろう?同じような効果は合法な酒でなんとかなるわけだし」
「う〜ん。ランナーズハイなんて言って、脳内麻薬を分泌する方法もあるね。あれなら合法も合法だし、何より金がかからない」
「宗教などの厳しい肉体的修行で、脳内麻薬を分泌するのはよくある事だね。でもドラッグ好きからすれば、そんなめんどくさい事をするくらいなら手っ取り早くドラッグを使っちまえという事らしい。僕から言わせればどちらも阿呆だ。」
「随分自信満々だな〜。」
「クスリとは一言で言ったら、人間に変化をもたらすものの総称だ。病気を治したり、怪我を治したり、鬱な気分を明るくしたり、幻覚を見せたり、感覚を麻痺させたり、ありとあらゆる変化だ」
「うん。で?」
「小さい子供が意味もなくクルクルクルクルその場で回ったりするだろう?あれは気分を変えてるんだ。頭がくらくらして、いつもと違う気分になる。それと同じ事を危険を冒してドラッグに求めるか、時間と肉体的苦痛を代償にして宗教や厳しい競技スポーツなんかに求めるかの違いだということだ」
「映画を観たり、音楽を聴くのも気分を変えるね」
「それも同じだ。経口や静脈注射ではなく、視覚や聴覚を通してドラッグを摂取してるってことだ」
「なんとなくわかってきた。快楽だ」
「病気を治すのは快楽だね」
「快楽への欲求がクスリへのスタンスを決めるんだね?」
「おおむねそれで間違いないと思う。僕は強烈な変化が好きじゃない。劇的に気分が変化しても、それを快楽と感じられない。だからそういう強烈なドラッグを好まないってことだ。苦痛は万人と同じく嫌いなので、それは取り除く。そのためのクスリは歓迎だ」
「ほんのちょっとの変化を楽しむ事が出来れば、強烈なものは必要ないってことなんだなぁ」
「そう。『セックス、ドラッグ、ロックンロール』は子供にとっては『運動、クルクル、みんなのうた』ってことだよ。老いて死ぬまでに、変化の幅をできるだけ小さくすれば、ずーっと楽しくいられる。急いで幅を大きくすれば、楽しい時間はそれだけ短くなるのだ」
「まいった。今日は完敗だ。おみそれしました」
「ま 全部でっちあげだけどね」
「ぐはっ」