「今日はさ、君と議論たたかわす気はないんだよ」
「ん、そういう気分の日もあるかもね。言いたい事は何もないってわけかな?」
「いや、そうじゃない。言いたい事は山ほどある。でもさ、黙ってる方がかっこいいこともあるだろ?」
「ちょっと言ってる意味がよくわからないけど…。黙ってると確かにかっこいいかもしれないけど、言わないと何も伝わらないよ?」
「言ったって何も伝わらないのさ」
「じゃあ、伝わるかどうか試してみようよ。君の話を聞いて、感想を言う。感想が的外れならそれは伝わってなかったってことだ」
「挑戦的だな。じゃあ独り言だと思って聞いてくれ。感想なんかいらないんだ」
「いいよ」
「高校を卒業して、アルバイトをしたんだ。それまでもアルバイトはしたことあったけど、何て言うんだろう、社会に出るきっかけかな。それまでのアルバイトとは、自分の中で全然違う意気込みがあった」
「うん」
「初日にさ、緊張して職場に臨んだんだ。カチコチになって働いた。自分が何言ってるんだかわからないくらい緊張してた」
「うん」
「それで休憩時間になった。休憩室でもカチコチになってた。休憩室には先輩がいたんだ。何話したらいいのか全然わからなくて、でも大人として何も話さないのはおかしいとか思ってて」
「うん。わかる気がするよ。社交辞令の一つも言えないのは社会人失格だと思ったんでしょ?」
「ちょっと違うけど、大体そんな感じかな。何かしゃべらなきゃ…何か話題を探さなきゃ…って、休憩なのに全然休憩にならないんだ。これならまだ仕事を黙々とこなしてる方がマシだと思った」
「そこで先輩が口火を切ってくれたんだね」
「そう。先輩はぼーっとタバコを喫ってたんだけど、まるで『今初めておまえがそこにいるって気付いたよ』 みたいな顔をして言ったんだ」
「うん」
「『喫うか?』って。」
「タバコを1本さしだしたのかな?」
「そう。どうやったらそんなに上手く出来るんだろう?って思うくらい自然に、袋の中から1本だけをぴょこんと飛び出させて」
「君はその時タバコを喫う人じゃなかったよね。君はそのタバコを貰ったの?」
「うん、貰った。初めて喫うタバコだったけど、何の抵抗もなく貰ったんだ」
「どうだった?」
「味なんか覚えてないけど、じっくりと味わって喫ったよ。話なんか別にしなくてもいいんだと思った」
「へえ」
「次の日からタバコを喫う人になってた」
「君の言いたい事がわかったよ」
「何?」
「それは言わない方がかっこいいんだろう?」
「そうかもね」