
ロクでもないやつの吹き溜まり。それ以外形容のできない場所に僕はいた。自分を棚に上げているように聞こえるかもしれないが、とにかく四六時中ゲーセンにたむろしていて、「こいつはいったいいつ家に帰っているんだ? 」と心配になってしまうくらいのゲームジャンキーがごろごろしていた。そんな中でも群を抜いていたのがシゲルと呼ばれる男だった。
こいつは僕の2つか3つ下だったから、当時は小学校の高学年だったはずだ。身長は150cm程度の見るからにガキそのもの。人なつっこくて話好きで、誰とでもすぐ仲良くなることができる、ゲーセンでは珍しいタイプのキャラクターだった。僕は当時、平日は夕方から深夜2時、3時まで、週末ともなると朝までゲーセンに居座ることが多かったのだが、シゲルと会わない日は1日としてなかった。恐らくヤツは着替えるときくらいしか家に帰っていなかっただろう。僕もよく学校をサボって朝からゲーセンにくりだすことがあったが、そんなときでもシゲルがそこにいなかったということは1度もない。他人事ながら「こいつは一体この先どんな人生を送るんだろうか」と思わずにいられなかった。
荒っぽいカツアゲが日常茶飯事のゲーセンで、こんなチビッコがよく生きていけたもんだと思われるかもしれない。だが事実は逆だ。カツアゲするのはシゲルの方なのだ。これだけゲーセンに常駐していると顔が売れる。人脈もできる。ヤツは区内でも最も武闘派として知られる青葉中学のオオバという巨漢と行動をともにして、常に示威行為を行っていた。シゲルに何かあれば青葉の連中が黙ってはいない。周りの者は勝手にそう思う。かくしてシゲルは不可触の存在としてゲーセンに君臨していた。気弱そうなヤツはたとえ高校生でもシゲルの餌食になっていたのだから凄いものだ。
僕はシゲルの先輩にあたるが、ヤツにとってはそんなものは一切関係ない。そもそも学校という枠組みが頭にないのだった。ヤツとトラブルを起こした後で、僕も一度的にされたことがあった。青葉のオオバのおでましだ。
「寺山、ちょっと顔かしてくれっか? 」
「ん? なんか用? 」
ゲーセンの横は格好のカツアゲ場所だ。ビルとビルの間の狭いところにビール瓶などが積み上げられている、いかにもな場所。酔っ払いの反吐と猫の小便の臭い。そこの奥に表通りから見えないように押し込まれた。オオバの後ろには青葉の手下が2人、さらにその後ろにシゲルがいた。
「俺ら金ねーんだわ」
「ふ〜ん。で?」
「で、だぁ? おまえナメた口聞いてると後悔すんぞ? 」
視線に怯えの色が出たらおしまいだ。精一杯の虚勢をはらなければ、この先ずっと的にされつづける。手下とのタイマンなら或いは勝てるかもしれないが、オオバだけは別格だった。中学生で身長180、体重90オーバーの巨漢だ。たとえこちらが武器をもっていてもこいつに勝てる見込みは全くなかった。恐怖で足が震えそうになるのを、視線に力を込める事ではねかえす。
「俺からカツアゲしようっての? 」
「貸せって言ってんだよ。おまえが金もってんのは知ってんだ。さっさと出せコラ」
これ以上オオバを刺激するのは危険すぎると思った。屈辱に涙が出そうになるがここは仕方ない。なけなしの5千円を手渡す。シゲルの勝ち誇った顔を横目で見ながら。
後日、オオバが1人でゲームをしているところに近づいた。手下を連れていないオオバは案外おとなしい。くつろいでいるのが雰囲気でわかった。それでも恐怖が薄れることはなかったが……。
「オオバ、今日俺金ないんだわ。この前の金返してくれよ」
「なんだとコラ? ……てめーバカなのか賢いのかさっぱりわかんねー野郎だな」
屈託のない笑顔を浮かべて手を差し出してみた。
「借りた金は返しとけよ」
「うるせー。てめー誰に向かって口聞いてんのかわかってんのか? ヒガシダの尻尾が調子こいてんじゃねーぞ」
「ヒガシダは関係ないよ。金、金」
「……。うるせー野郎だな……。金ならシゲルから取れ。俺は今日おまえかまってる気分じゃねーんだ」
安堵で思わず息がもれる。ヒガシダというのは僕の中学をしめてるヤツだ。さすがのオオバも一目おく、強者だった。ヒガシダの名前を出した時点で、僕に手を出しづらいということを自らさらしたも同然だ。しかもシゲルと僕のトラブルには干渉しないというお墨付き。僕はシゲルから1万まきあげて事を収めた。オオバとの微妙な緊張関係はその後も続いたが、喧嘩になるようなことはなかった。もっとも、なりそうになったらすぐ逃げていただろうが……。
つづく……
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