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2000年03月17日

#04 消えたシゲル

ゲーセンに常駐する者は2つの人種にわけることができた。とにかくゲームが好きで、ストイックにテクニックを磨くゲーマーと呼ばれる者たち。学校からドロップアウトして行き場を失っている荒れたガキたち。そしてその両方に属している者もいる。僕やシゲルは両方に足をつっこんでいたクチだ。ただし僕は相当ゲーマー寄りで、シゲルは荒れたガキ寄りだったが。

不思議なもので、ゲームがべらぼうにうまいヤツはたとえナリがオタクでも(当時オタクなんて言葉はあまり使われていなかったが)荒れたガキの的にされることは殆どなかった。ある種の尊敬の念をもたれていたのだ。どちらの人種でも中途半端な位置にいるもの、つまり喧嘩が弱いのにイキがっている人脈のないガキ、ゲームが下手で尚且つオタクなヤツ、こういうやつらは常に身の危険にさらされていた。僕は顔が売れていたこと、一見喧嘩が強そうに見えること、ゲームの腕がそこそこだったことによってめったなことでは危ない目に遭うことはなくなっていった。たまに、遠い街からわざわざ喧嘩を売るためだけに来たようなヤツとトラブルを起こすことはあったが、そんなときは地元の荒っぽい連中が放っておいても加勢にくる。外から見れば危険で殺伐としているように思えるゲーセンも、居ついてしまえばぬるま湯に浸っているような安心感があるのだ。それはただ単に感覚が麻痺しているだけのことなのだが……。

シゲルはあの事件以来、僕との距離をちぢめていた。ヤツは自分に危害を及ぼす可能性のある者には積極的に近づいていってパイプを作る。いろいろな情報や、金をエサにして懐柔するのがシゲルのゲーセンでの処世術なのだ。実際シゲルは驚くほど金を持っていた。多くはオオバとともにやっていたカツアゲによるものなのだろうが、それだけではどう考えても足りない。聞いてみると、ヤツは盗みもなりわいにしていたのだった。客の注文を受けて、ディスカウントショップなどで家電製品などをパクり、売りさばく。手口は実に巧妙でめったに捕まることがない。たとえ捕まっても見るからに小学生然とした外見と、人懐っこそうな表情、うそ泣きの演技で見逃してもらうのだ。そして捕まった店には2度と近寄らない。シゲルが警察に突き出されたという話は1度も聞いたことがなかった。

「俺に盗んでくれって言ってるみたいなチョロい店が3軒あるんだ。なんか欲しいものあったらいつでも言ってよ。金はいいから」

借りを作れば後々面倒なことに巻き込まれる。僕はシゲルに仕事を依頼することはなかった。そのかわりヤツと屈託なくゲームを楽しむ時間は確実に増えた。『ハイパーオリンピック』というコナミのゲームが僕らのお気に入りだった。単純な操作性で、2人で競争ができるところがウケて大ヒットを飛ばしたゲームだ。僕らは指の皮や爪がぼろぼろになるまでハイパーオリンピックをともにやりこんだ。大工が使うような鉄製の定規を使うと、いとも簡単に好記録が出せるのだがシゲルはあくまで「ピアノ打ち」と呼ばれる指先だけを使うテクニックにこだわった。並み居る定規使いたちも、シゲルのピアノ打ちにかなうものはいなかった。僕はハイパーオリンピックをプレイするシゲルを心底尊敬していたように思う。

シゲルのプレイはどんなゲームにおいても独特の美学をもっていた。「魅せるプレイ」というヤツだ。人が編み出したパターン攻略は使わない。わざわざ難しいテクニックを使い、安易に好結果に結びつく攻略法を嫌う。任天堂の『パンチアウト』というボクシングゲームでも、ヤツは後ろにギャラリーの山ができるほどの素晴らしいパターンをいくつも編み出した。シゲルと行動をともにすることが多くなっていた僕は、ギャラリーの喝采を自分のことのように嬉しく思ったものだ。

シゲルは駅前のもっとも危険なゲーセン「サン」の店員(僕は事件以来、心の中で「バット」と呼んでいた)とも仲がよかった。バットが仮眠をとるときはシゲルがゲーム機や両替機の鍵を預かって業務を代行するようになっていた。もちろん無給だ。シゲルが鍵を持っているときは僕らはゲームがやり放題になる。バットも公認のタダゲーム。ただし深夜なので僕は泣く泣く家路につかなければならないことが多かった。嬉々としてゲームを続けるシゲルを尻目に。




ある日を境にシゲルの姿がゲーセンから消えた。あれほど毎日狂ったようにゲームに興じていたシゲルがどこにもいない。僕は地元のゲーセンをフラフラとさまよって、半ば無意識にシゲルの姿を探した。がしかし、年下の尊敬すべきゲーマー、狡賢くもどこか憎めない無法のアウトサイダーは2度と僕の目の前に現れることはなかった。

オオバに後日聞かされたところによれば、シゲルはサンの売上をパクっていたのがみつかって、バットに大怪我を負わされたそうだ。シゲルが消えてから数日後、バットも店を辞めていた。2人がその後どうなったのかは知る由もない……。僕の心には少しだが穴があいた。

つづく……



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