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2000年12月11日

世の中にはいろんな人がいる

バイト時代には面白い出来事がたくさんあったので、それを小噺として小出しにしていこう。

タッくん

タッくんと呼ばれる客は、大体月に1〜2回、店を訪れていた。恐ろしく目立つ人物なので、1回見たら忘れられない。外見的には昔とんねるずがやっていた、もじもじくんの木梨の方を想像してもらえば、ほぼ間違いない。眼鏡をかけていて痩せ型で、ちょっとアブナイ雰囲気をかもし出している。年齢は恐らく30代の前半だろう。アメフト部の同級生に好きな女の子をさらわれる、アメリカの冴えない眼鏡高校生(ニキビ多数)といった感じに見える。

店に着くとまず窓際の席に座り、従業員の方に背を向ける。それからメニューをじっくり眺めてからおもむろに左手をたかだかとあげる。声は一言も発さず、手だけで従業員を呼ぶのだ。注文は決まって「モンブランとコーヒー」で、それ以外のものを頼んだことは1度もない。だったらメニューなど見なくてもいいのに……手と思うのだが、これはタッくんの儀式であって、絶対に欠かすことは出来ないらしいのだ。

じっくりとコーヒーブレイクを堪能したあと、タッくんはメモ帳を取り出し、何か書き始める。1度だけ従業員がそのメモ帳を覗き込んだことがあるのだが、中にはビッシリと細かい字で、その日あったことが書き込まれていたそうだ。

「従業員Aと会話」

などと箇条書きになっている。ちなみに覗き込んだ従業員A君は、タッくんの注文を取っただけで、会話を交わした記憶はなかったそうだ 笑。

会計の際にはさらに驚かされる。タッくんは意外に金持ちなのだった。少し膨らんだ財布からサラリと1万円札を取り出し(必ず1万円札であり、その他の紙幣で支払うことはない)、従業員に手渡すのだが、そのとき必ず一言添える。

「バイバイ……、タッくん……」

ほとんど聞き取れない小さな声でぼそっと言うのだが、従業員はこれを楽しみにしているので全神経を耳に集中して聞き逃さないようにする。この人は、どうやら1万円札に「タッくん」という名前をつけているのだった。僕らが彼を「タッくん」と呼ぶのはこれが元になっている。「タッくん」とは彼の名前ではなく、1万円札の名前なのだった。



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