
目が醒めてからもあとを引く夢がある。恐怖や怒り、悲しみの感情が特に残りやすいと思うのだが、僕が見た中で最もあとを引いた夢は「ハゲる夢」である。
大学生のときに見たんだと思うが、とにかくこの恐怖感たるや筆舌に尽くしがたい。夢の中で僕は髪を洗っていた。
シャンプーでごしごし洗っていると、指の先に妙な感触がある。目が開けられないのでよくわからないのだが、どうやらごっそり抜けた髪のようだ。顔の部分だけタオルで拭き、目を開ける。直径5cmくらいの大きさで丸ごと髪が抜けている……。「うわぁああああ」それ以上頭をゴシゴシやる勇気が起きなくなり、すぐにシャワーで流し始めたのだが、今度はお湯が当たった部分からわらわらと髪が抜け始める。シャンプーの泡を流し終わったら、ほとんどの髪が抜け落ちてしまった……。地肌の4/5くらいが露出している。まばらに残った髪を引っ張ってみたのだが、これは逆にしっかりと頭皮に根をおろしており、容易には抜けない。完全に丸ハゲになるよりも悲惨な状態だ……。
「この惨状をどうやって誤魔化したらいいんだろう……」「彼女にもフラれるな……」「カツラ……」「バイトもクビかな……」「なんか重大な病気になったのかも……」「帽子持ってたっけ……」「この先俺はどうやって生きていくんだ……」
パニック状態の頭でいろいろ考えた。しかしあまりに突然の不幸に絶望し、風呂場から一歩も動くことが出来なくなった。そして目が醒めた。心臓はバクバクいっている。すぐに頭に手をやり、髪の毛があるのを確認したときには、あまりの安堵感で思わず失禁したくらいだ……(ウソ)。
こんな風に突然ハゲるのもショックだろうが、真綿で首を絞められるようにじわじわとゆっくりハゲていくのも相当な苦しみだと思う。ハゲはじめた人というのはこんな夢を頻繁に見るのかもしれない。夢で苦しめられ、現実の抜け毛に怯える。これじゃストレスがたまってますますハゲるだろう。
男に限らず、ある程度の年齢に達した人にとって、ハゲは最も身近な恐怖の対象だ。バイト時代に結構ハゲてるヤツがいたのだが、そいつは僕よりも全然年下で、当時26歳くらいだった。前頭部から頭頂部にかけては ほとんどうぶ毛しか生えていない状態の重症者である。大学卒業と同時にハゲはじめ、恐ろしい勢いで薄くなっていったのだそうだ。元々性格が引っ込み思案で大人しいので、豪快に笑い飛ばしたり開き直るといったことが出来ず、周りの者も決してハゲの話題にふれることは出来なかった。ちなみに僕だけは構わず「ハゲ ハゲ」と言って小バカにしていたのだが、これは周りがあまりにも腫れ物に触るみたいに接していたので、少しでも気を楽にさせてやろうとの配慮からだ。但し本人がどう感じていたかは僕の知る限りではない。僕に露骨にハゲと言われる度に、実は殺意を抱いていたかもしれない。
僕自身も今現在はハゲの兆候はまったくないが、いつ来るかはわかったものではない。潜在的な恐怖はあるのだ。遺伝的にも危険性が高いのは家系を見て明らかだからである。今から気に病むとストレスで進行が早まる可能性があるので、心の奥深くに封印している。
ハゲたらどうしよう……。やはり開き直ってなるべく隠さないようにするしかないだろう。竹中直人のような感じにすれば、カッコいいと言えなくもない。しかし実際その時になって、自分自身開き直れるかどうかは全く自信がない。キャラクターが根底から変わってしまうだろう。神様お願い! 60歳まではなんとかして!!
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