
うろ覚えで申し訳ないのだが、確か年間の死者の数では交通事故よりも風呂での溺死の方が多かったと思う。交通事故で亡くなる人が年間1万人を超えると警察が騒ぎ出しニュースにもなる。しかしそうした話題性の大きいニュースの陰で、もっとたくさんの人が風呂で溺死しているのである。
最も危険な時間帯というのがあって、それは早朝だそうだ。朝4時とか5時といった時間に死ぬ人が非常に多い。風呂で溺死などと聞くと俄かに信じがたいが、仕組みを聞くとなるほどと納得する。人間は温度42度以上の湯につかると、体が防御反応を起こし、血圧が一気に上昇する。しかしすぐに湯の温度に慣れ、今度は一気に血圧が下降する。この血圧の変化についていけず、失神してしまうのだそうだ。普通風呂で眠ると、顔が湯に着いた瞬間に反射的に目が醒めるものだが、完全な失神状態ではそのままぶくぶくと湯に顔が沈んでしまい、溺死するのだ。
また酒に酔っている状態だと危険性はさらに高まる。ほとんど自殺するのと変わりない。交通事故に気をつけるよりも、二日酔いでの早朝風呂に気をつけなくてはいけないわけだ。
僕も一度、ヒヤッとしたことがある。別に早朝でも酒に酔っていたわけでもなかったのだが、湯船から出ようとしたときに貧血を起こしてしまったのだ。立ち上がった瞬間目の前が真っ白になり、そのまま真後ろに倒れて後頭部を湯船の角に思い切りぶつけてしまった。気付いたときには僕は浴槽に仰向けで沈んでいた。湯船の底からぼんやりと蛍光灯の光をみつめ、「俺 なにやってんだろう……」と考えた。そこで水中であることに気付き、慌てて息をしようとして、思わずお湯を飲み込んでしまった。時間にしたらどれほどの間、気を失っていたのだろう。10秒か、それとも1分か、今となっては全くわからないが、結構危険な状態だったのかもしれなかった。後頭部にできた随分とでかいタンコブをさすったときに、「ああ、死ななくてよかったぁ……」と思った。
最近、自分が老いたときの事をよく考える。痴呆になって家族に迷惑をかけたくないので、ボケる前に死のうと思うのだが、どうも死ぬ方法がみつからない。そこでこの方法を思い出したというわけだ。酔っ払って早朝に熱い風呂に入るだけというお手軽さに加えて、誰がどう見ても事故にしか思えないので、「自殺」と言うネガティブな捉え方もされずに済むナイスアイデアだと思う。まさにぼんやりと眠るように死ねるだろう。
しかし問題なのは「ボケる前に死のう」と思っていても、いつボケるかは誰にも予測できないということと、いざボケてしまったら自分がボケていることを自覚できないということだ。うーん。なかなかうまくいかないものだ。名案求む。
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