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2001年09月20日

饒舌な人

「すいません。ちょっといいですか?」
「ん? なんですか? 宗教の勧誘とかだったらお断りですよ? あなたの健康と幸せを祈らせてくださいとか、そんなもんやってる暇があったら自分の健康と幸せを考えろっちゅう話ですからね。余計なお世話やっちゅうねんって話ですからね。大体僕がそんなに不健康で不幸に見えるのかっちゅう話ですしね。僕に言わせればあなたの方がよっぽど顔色悪くて不健康そうに見えるし、顔も貧相で不幸っぽく見えますよ。他を当たってください」
「いえ、そうじゃなくて……」
「ああ 道に迷っているのですか。それならそうと初めから言ってくださいよ。やだなあもう。どうも最近その手の輩に引っかかる事が多くてですね、あれってほら、なんかムカツクじゃないですか? 手をかざして健康と幸せを祈られてる自分がイヤだし、人通りの多いところで目をつぶって手をかざされてる姿を通行人にジロジロ見られるのがそもそも耐えがたい恥ずかしさですし、大体あれは相手を選んでますでしょ? いかにも大人しく言う事を聞きそうな相手しか選んでないというか、あなたあそこの地べたに直接座り込んで何時間もダベってる金髪の若者集団に同じことを言えるのですか? っていう。あの手の輩に話し掛けられるってこと自体がもうなんて言うか人生の敗北者のような印象を周りに与えるって言うか、僕自身が感じずにいられないって言うか、耐えがたい屈辱なわけですよ。頼むから僕に目を向けないでくれ。僕の方に歩いてこないでくれ。なんでたくさんいる通行人の中から僕を選ぶんだ? みたいな。って言うか秋葉原なんかを歩いてると、絵を売ってるお姉ちゃんがいますでしょ? あのいかにもな南国風のどうでもいい絵。イルカとかが活き活きとしたタッチで描かれちゃってるトロピカルな絵。あれ結構高いんですよね〜。あんなもん要らないっちゅう話でしょ? ダサイし。で、そういう絵を無理矢理買わせるんですけど、その方法があこぎって言うか、道行く秋葉オタクをモデルみたいな綺麗な姉ちゃんでひっかけて、無理矢理ギャラリーに連れてくわけですよ。それであーだこーだごちゃごちゃ言って、もう買わざるを得ないような状況に持ってくわけです。この被害者って言うのがもう絵に描いたようなオタクくんなわけで、いかにも人とまともにコミュニケーションが取れなくてあこぎな業者のあこぎな商売に抵抗できない弱弱しい存在というか、捕まっちゃったが最後、買わずにギャラリーを出られないって言う。あれもお姉ちゃんに声かけられると、オタクのレッテルをべっとりと貼り付けられたような気がして不快なんですよ。そりゃ確かに僕はオタクですよ? だけどねえ、人を見た目で判断するなって言うか、僕はそんなあこぎな商売の仕組みはちゃんとわかってるんですよ。おまえなんかに騙されないぞと。まあそう言いたいわけです。で、何処に行きたいんですか?」
「いえ、道はどうでもいいんです……」
「いいってことはないでしょう? あなた道に迷っているんでしょう? 僕もそれほど暇なわけではありませんが、あなたの行き先如何によっては同行してあげないこともないですし、もしかしたら行き先が一緒かもしれませんし、そもそもこれは何かの縁で、僕らを引き合わせたのは神の思し召しかもしれませんし。って言うとまるで僕が敬虔なキリスト教徒かと勘違いされるかもしれませんが、僕はあいにく無神論者です。残念でした。って言うかさっき宗教的勧誘を毛嫌いしていることを披露しているからバレてましたかね? 大体キリスト教徒のやってることは無茶苦茶でしょ? 先日の同時多発テロだって、遡れば十字軍のイスラム蹂躙に端を発しているわけでしょ? まあ逆に言ったらさらに遡ってイスラムが領土を拡大していた所にも原因があるわけですからどっちもどっちってところなんですけどね。まあそれはいいとして、何故あなたは一度は僕に対して道をたずねようとしたのに、今になってそれをやめるなどという不可思議な行動を取るのですか? それが僕にはわからない。あなたの目には強い意志の現われがある。どう考えても優柔不断な人の目ではないです。そんなあなたが一度決めた行動を覆すっていうのは何か深遠なるお考えがあるに違いないと僕は今思ったわけです。もしかして僕を怪しい人間だと誤解していませんか? 僕が親切にも目的地まで同行する行為を、レイプ目的の甘い罠だと勘違いしてやしませんか? そんな心配だったら無用です。僕は童貞ですし、そもそも20代の女性とはまともなコミュニケーションが取れない。なんか怖いんです。大人の女性と話すのが。あなたは見た目強烈に太っている。見たところ身長156cmで体重は80kgを超えている。だから私はまともにこうやって話すことが出来るんです。これがもしも身長160cm超で体重40kg台のモデルのような女性だったら、今ごろ顔は赤面し、動悸とめまいで立っていられないほど緊張してますよ。あ、誤解しないでくださいね。僕は太っていることを罪悪だとは全く思ってません。むしろ美徳だと思ってます。体重と優しさは緩やかな比例関係にあるんじゃないかという持論があるくらいですから。そういうわけで、あなたにはかなりな好感を持っている、いやむしろ好意を寄せてると言った方が正しいかな? そういうことは確かですが、性的な対象として見るなどという無粋な真似はしていませんからどうぞご安心ください。それともあれですか? 僕が一見話し掛けやすいオタクに見えたんだけど、いざ道をたずねるとなると、こんなオタク野郎に青山原宿の道が把握できているわけがないとお考えですか? それも杞憂です。あいにく僕はこの辺は地元でして、地方から上京してきておしゃれに過剰に力が入っちゃってるエセ東京人とはわけが違います。あ 誤解しないでほしいのですが、エセ東京人の人は本物の東京人よりむしろおしゃれであると僕は思ってます。結局地元の人ってのはおしゃれな街に住んでいるが故におしゃれに無頓着になる傾向にあるんですね。僕がそのイイ例ですよ。いつもジーンズにチェックのシャツというお決まりのファッションです。まあそれなりにジーンズにもシャツにもこだわりがあってこういう格好をしているのは言うまでもないんですけどね。そこらへんはやっぱり地元のプライドっていうか、安いものを着ていてもセンスは誤魔化せないって言うか、安そうに見えて実は結構高価なものを着ているというか。まあそんなわけで、僕はこの辺の小綺麗なお店はほとんど知ってますからどこなりとあなたを案内することが出来るとだけははっきりと言っておきましょう。遠慮なく僕に道を尋ねてください」
「いえそうじゃなくて、忘れ物です。レンタルビデオの袋をさっき地下鉄の中に忘れませんでしたか? 私、それを拾って追いかけてきたんです」
「てめえ!! 中身見てねえだろうな!!!??」
「(゜ロ゜;」



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