
11月18日夜9時からTBSでやっていた「38億年スペシャル」(タイトルうろ覚え 笑)は見ただろうか? 見てない? それはもったいないことをしたものだ。ワイドショーやニュースやバラエティやドラマやお笑いもいいが、たまにはこういう硬派な番組も見るべきだ。しかし日立が提供する番組は華がない代わりに硬派で面白いね。古館伊知郎のわかってるんだかわかってないんだか不明な弁舌は置いといて、番組の最後に小学生の女の子の死を持ってくることによって、無理矢理感動的な番組に仕立てあげようとするTV屋のいやらしさも置いといて、「心の問題」を脳の科学だか化学だかによって読み解くという切り口はとても面白かった。
見てない人のために内容を少し書き留めておこう。
以前ここ冷麺でも「人間が人間の顔を識別する能力はとてつもなく高度である」というような事を書いた。パターン認識かなんかの話の時だ。脳の側頭葉と呼ばれる部位は主に形を認識することに使われているらしいのだが、そのほとんどは人間の顔を識別するためのものなんだそうだ。正に「顔識別専門」の神経細胞(ニューロン)がびっしりと側頭葉に配置されている。これによって、例えば歳をとって容貌が変化したり、あるいは表情によって容貌が変化しても「この顔は誰某の顔だ!」と認識することが可能になっている。番組ではこの側頭葉が壊れてしまった人物の興味深い症例が紹介されていた。「相貌失認」と言うのだそうだ。
A氏は脳内出血のために側頭葉の一部に損傷を受けた。一命はとりとめたものの、意識が回復すると信じられない事が起こっていた。人物の顔にまるでモザイクがかかったように見え、誰一人として顔を見分けることが出来なくなっていたのだ。もちろん自分の顔すらもだ。鏡を見ると誰か見知らぬ人物がいる。それが自分であるということは容易に想像がつくのだが、見覚えがないのだ。実の息子、娘もわからない。以前見知っていたはずの有名人、ジョンレノンだのマリリンモンローの写真を見せられてもそれが誰なのか思い出せない。記憶喪失になったわけではない。顔を識別する能力だけが失われたのだ。
A氏は脳梁という部分にもダメージを受けていた。脳梁というのは右脳と左脳のパイプラインの役割を果たしており、ここが壊れると両者のバランスが取れなくなる。個々が勝手な指令を出すために右半身と左半身がちぐはぐな行動を起こすのだという。これは「エイリアンハンド症候群」と言うそうだ。両手を使って靴下を履こうとするのだが、右手は靴下を引っ張りあげようとしているのに、左手は意思に反して靴下を引き下げようとする。いつまでたっても靴下が履けないのでしまいにはあきらめてしまうのだという。
他にも脳に関するいくつかの珍しい症例(多重人格など)が紹介されていた。実に興味深いものばかりであった。
心の問題は何か深遠なる精神世界の範疇で、科学で説明することは出来ないというオカルト的立場の人から見ると、それを脳の作用に置き換えることは苦々しい事に思えるだろう。「これらが人間の心の全てではない」と抗いたくもなるだろう。確かに全てではないだろうが、どうやっても覆せない真理が含まれていることも事実だ。
「何だか気持ちがふさいでしょうがない」「鬱だ……」「何もかもがイヤになった」こんな心の変化は薬一発で解消してしまったりする。実に情けない。要するに化学薬品の力を借りて電気信号をちょいと送れば、心さえも動かすことが可能だということだ。頭蓋骨を切り取って(そんなことくらいで人間は死にはしない)、脳の表面を直接刺激してやれば親しい人物との過去の記憶を呼び覚ますことも可能だそうだ。実際その開頭実験のフィルム(!)が放送されていた。じゃあ一体私のこの心は何なんだという思いにもなる。触れば自動的に勃起する男性器と何ら変わりないではないか(インポテンツの人ごめんなさい)。
僕が若い頃散々読んだ、岸田秀の本に書いてあった言葉を思い出す。この世の全ては幻想なんだと。家族愛や恋愛、人生に対する悩みなんかは、電気信号と遺伝プログラムが生み出した心という名の幻想に過ぎないのだと。しかしここで考え違いを起こしちゃいけない。これらが実は幻想なんだという考えは、生に絶望すべき類のものではない。「愛」に対する過剰な期待に歯止めをかけ、それに裏切られた時にも心を壊さないための予防壁なのだ。
「愛なんてものは存在しない」「人間は本当は醜い存在だ」こんな言葉を抜け抜けと吐く者は、「誰か俺を愛してくれ」「人間は本当は尊い存在なんだと信じたい」と言っているも同然だ。信じたいものに裏切られ、それに耐えられなくなったロマンチスト、ペシミストが何をわかった風な口をきいているのか。愛も神も存在を信じる者の中に確かに存在しているし、人間は醜くも尊くもない。こんなシンプルな解答が、こたつでビール片手にTVを見てるだけで手に入るのだからお手軽なものだ。それすらも導き出せない者は一体何を見て生きているんだ?
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