
たにしの殻の影響でただいま恋愛キャンペーン中。
Kが狙っていた成美という女はいちいち格の違いを見せつけるすごいヤツだった。育ち、容貌、気の強い性格、どれを取っても僕らの手に負えないのは明らかだったが、Kはなんとかしてこの女を落としてやろうと躍起になっていた。ちなみにKは身長165cm、メガネに小太りの一見オタク風であり、帰国子女で英語が堪能ということを除けば何の取り柄もない。誰が見ても不釣合いなカップルに見えた。しかしアメリカ育ちのKはそんなことをコンプレックスに感じるようなタマではない。気に入った女には迷わず直進するタイプである。
成美に格の違いを見せつけられたエピソードで思い出深いのはディズニーランドの一件だ。その日、僕とKは成美の誘いでディズニーランドに車で向かっていた。もう一人女の子が来るという話だったので、成美の事は全く眼中にない僕はそちらに勝負をかけようかなという気持ちだった。「しかしディズニーランドで遊ぶには随分遅い時間だな。どうすんだ一体?」
現地に到着するとシンデレラ城には目もくれず、ヒルトンホテルへと導かれた。正直びびる。こっちは貧乏大学生、着てる服もどう考えても場違いだ。そんな腰の引けた僕にはおかまいなしで、成美は上層のバーラウンジへずんずん歩いていった。上に行けば行くほど自分の服装が気になって仕方ない。同じくロクな格好をしていない隣のKを見ると、こいつは全然気にしていないようだ。むしろ目が輝いている。雰囲気のいいバーで口説いてやるぞという意気込みが感じられる。げんなりだ。
バーに着くと成美は生粋のお嬢様育ちを前面に押し出し、いきなり入り口で「窓際の席で、ディズニーランドが一望出来るところ」を要求した。僕は冷や汗をかいた。僕らには店のど真ん中の一番居心地が悪い席がお似合いだと思った。しかーし! びっくりするほどすんなりと僕らは窓際に通されたのだった。成美の押し出しの強さに感心する。席に着いてもゆったりとした身のこなしで全く動じるところがなかった。僕はカクテルひとつ注文するのにもおっかなびっくりだったが……。
しかし2杯3杯と酒が進むと自然と口も滑らかになる。僕は成美じゃないほうの女の子を口説きにかかった。いい感じで盛り上がってきたところで成美が「ちょっと静かにしてみて。外見てごらん」と言う。いいタイミングでディズニーランドの花火があがる。猛烈に感動的なシーンである。「ふふふ。これ見せてあげようと思って」
てゆーかこれ逆じゃない? 普通男が連れてきてあげるもんじゃないんすか? なんで、「わ〜綺麗〜」とか男2人でうっとりしちゃってんすか? いかん。いかんよ。冷静になれよ。これじゃ口説いてんだか口説かれてんだかわかんないぞ。
そのままズルズルと遅くまで飲むのかと思っていたら、花火が終わるとすぐにお開きということになった。「チェック」。成美がスマートに店員を呼びつけ、その場で勘定を済ませようとする。慌てて財布を取り出そうとしていると、店員は成美のクレジットカードを受け取ってさっさとレジの方に消えてしまった。非常にばつが悪い。「いいよ。ここはあたしのおごりで」とか言われてさらに落ち込む。仮に僕ら男連中が支払うことになっていたとしても、レジまで歩いていって店員に失笑されていたに違いない。僕は心のメモに「勘定は席についたままでやるのがスマート」と書き込んだ。寒い……。
とまあ、こんな感じの成美を落とすべく、Kは大掛かりな作戦をやってのけることにした。題して「シチュエーションで落とそう! 作戦」
Kの親父は銀行員で、ルクセンブルクに駐在している。毎年夏休みはKもそちらに滞在する。そこで、ルクセンブルクから日本の成美に電話をかけて、無理矢理呼び寄せるという段取りだ。夏休みが来る前に念入りに気を引くようなセリフを吐きまくり、「なんかKくんのことが気になって仕方ない!」という雰囲気にもっていかせた。うまいこと術中にはまった成美は、Kからの電話でなんと本当にヨーロッパまで飛行機で会いに行く事にした(旅費はK持ち 笑)。
そして彼らはパリの凱旋門で落ち合ったのだった。そりゃもう感動的だったに違いない。遠く異国の地での再会。あ〜なんてロマンティック。ヒルトンホテルで見せつけられた格の違いを見事にひっくり返す演出だった。パリからルクセンブルクまでのドライブで、成美はKの男っぽさに惹かれる自分に気付いていた。一方その頃僕は東京であいも変わらずゲームに興じていた……。寒い……。
しかし世の中そう甘くはないわけで、遠い異国の地での再会も日本に戻ればただのチビメガネ。成美は夏休みが終わり帰国するとさっさと別の男を作り、あっさりとKはフラれたのであった。南無。もちろん旅費は無駄金となったわけである。
教訓
メガネはメガネ、チビはチビ。無理めの女にゃ手を出すな。
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