
今日は他愛ない自慢。
ほら、一生に一度は「この男に見覚えありませんか?」とか言われて初老の刑事に写真を突きつけられたいでしょ? 見るからに犯罪者ヅラした男の写真。「いや〜見覚えありませんね〜」とか言ってみたいでしょ? 僕はあるのだ。写真の男は新実智光。これが自慢。この名前、もう覚えてないかな?
店長室には2人の刑事が座っていた。片方は総白髪のでっぷりとした男。もう片方は脂ぎった髪の痩せた中年。白髪の方は手に扇子を持って忙しく顔を扇いでいる。温厚そうな体躯とは裏腹に鋭い目付きで僕を睨んでいた。どうやらこちらが上司で、脂の方は補佐役みたいだ。僕は「刑事って扇子が似合うなぁ」などと呆けた感想を抱いていた。テーブルの上には3枚の写真が乗せられている。目が釘付けになった。
刑「3月19日。君はここで働いていたんだよね?」
僕「はい。朝から晩まで。タイムカードがあるので間違いありません」
刑「この写真の男がね、3月19日、この店で食事をしたと言っているんだ」
僕「はい」
刑「見た覚えはあるかな?」
僕「特徴あるお客さんの顔は大抵覚えていますが、この男には見覚えありません。特に剃髪しているお客さんなどめったにいないので、もし見ていたら仮令半年前でも1年前でも確実に覚えているはずです。かつらをつけていたとしたら自信ありませんが」
刑「そうか。ありがとう。仕事に戻っていいよ」
その後、僕に続いてバイトの主だったメンバーが次々に店長室に呼ばれていった。1階のケーキ売店担当の子達は特に念入りに話を聞かれている。客が店内に入るときは、必ず売店の前を通るつくりになっているからだ。
取り調べ(?)を受けた後は、休憩室で今か今かと待っていたバイト仲間の質問攻めにあった。日本を震撼させた地下鉄サリン事件の前日、首謀者の一人とされるオウム真理教の幹部、新実智光が僕らの店に来ていたのだ。いや来ていたのかどうかはわからないが、本人がそう供述しているのだという。これで大騒ぎしない方がどうかしてる。
結局新実を目撃した者はいなかった。嘘の供述だったようだ。白髪の刑事は今日の捜査が徒労に終わったという落胆を微塵も見せなかった。供述のウラをひとつひとつ潰していくことが俺の仕事だと言わんばかりに、ギロリと僕らを睨みつけてから店を去った。くそ! 痺れた。かっこいいぜ刑事! 初老の刑事! ブラボー!
大きくなったら絶対刑事になるぞ! 以上、自慢と将来の夢でしたっ!
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