
第三回バイト時代のちょっとすごい話。
「アニさん、アニさん、ちょっと来て。B1の女子トイレに鍵がかかってる」
トイレに鍵がかかってるのは別に不思議でもなんでもない事ですが、今はもう午後11時半。とっくに閉店しております。毎日閉店後にトイレ掃除をするのですぐに発覚しました。しかし中に誰が入っているのかさっぱりわからない。60人からいる社員・バイトの所在を確認しました。うん、従業員じゃない。じゃあ客だ。また変な客のせいで帰りが遅くなる……。
扉をドンドン叩いて声をかけてみたのですが全く応答がありません。実は中は無人で、扉が閉まる際に何かの拍子で鍵がかかってしまったという線も捨てきれない。うーん、困った。無人だったら明日に持ち越せばいいけど、万が一中に誰かいるのだとしたらこのまま帰るわけにはいかない……。扉は頑丈な鋼鉄製で、よく公衆トイレにあるような上下に隙間があるタイプではありません。完全に密閉されており、中に人がいるかどうかを目視することは出来ないのです。
とりあえず「無人なのに自然と鍵がかかった」という線で話を進めるのはダメだ。違ったときのダメージが大きすぎる。しかし何故中にいる人は全く応答しないんだ? まさか中には死体がっ!? ひぃぃぃいいい!! そういえばトイレで死んじゃう老人とかいるらしいよね。ハッ! もしかしたら殺人? 中には血塗れの全裸死体? いやいや待てよ。それなら犯人も返り血を浴びているから店から出られなくなるはずだ。冷静になれ。あっ、もしかして突然の下痢で間に合わずに漏らしちゃって、それで恥ずかしくて出て来れないとか? ぎゃはは。って笑ってる場合ちゃうっちゅうねん。さあどうする。どないする。
僕は周りを囲んでいる10人ほどのギャラリー(全て従業員)に静かにしてもらい、中にいるであろう人に向けて優しく語りかけてみました。「お客さん、何があったかわかりませんが出てきてもらえませんか? もうお店は閉めないといけないんです。このままだとここは真っ暗になってしまいますよ?」その時初めて中から声が漏れ聞こえました。すすり泣く声です……。「うっうぅぅうううっうっうっはぁぁあああ」……こ、恐い。
とりあえず人がいることは間違いありません。しかし女子トイレとはいえ中にいるのが女とは限らない。泣き声だけでは判断がつかないのです。変態野郎が邪まな考えで篭城しているかもしれない。もしかしたら狂った変態野郎は巨大な牛刀を持っていて、扉を開けた瞬間全員に斬りかかってくるかもしれない。血の惨劇。死屍累々。ひぃいい。これは迂闊に扉を開けさせるわけにもいかなくなりました。もうダメだ。僕らの手に負える事態じゃない。結局警察を呼ぶことになりました。オチを期待していた皆さんごめんなさい。現実にはオチなどないのです。
武装警官3人によって引きずり出された篭城犯は、50を過ぎた狂ったおばさんでした。焦点の合っていない目。首のすわっていない赤ん坊のようにぐにゃぐにゃ動く頭。「新しい息子を呼ばないとあの子が死んでしまう」などと意味不明な言葉を吐き散らしながら連行されていきました。あまりの後味の悪さにギャラリー一同無言の帰宅です。ま、死人が出なかっただけ良かったと思わなきゃね……。
MENU
冷麺最新5件の記事
冷麺最新3ヶ月
Amazonトップセラー