冷麺のトップに戻る

2002年03月26日

血の道

僕がこの能力を身に付けたのは恐らく物心つく前だ。初めはそれが自分にだけ備わっている能力だとは気付いていなかった。と言うより自分がやっているということにすら気付いていなかった。結果として切れている。目の前にあるのは結果だけ。過程はない。

高校生の頃はひどかった。自制心がなく、手当たり次第に切っていた。

満員電車に乗る。吊り革につかまり、不必要に肘を張る中年男がいる。ぐいぐいと僕の体を押しのけるように肘を張る。僕の中で声がする。「切れ」と。意識を中年の肘に集中する。別に「切れろ切れろ」と念じているわけでもない。ただ意識を集中するだけ。すると見える。目の裏側あたりに映像が浮かぶ。中年の肘が見事な断面を描いてまっぷたつに切れる映像が浮かぶのだ。次の瞬間、スーツの中の肘は切れている。スーツの袖は切れず、中の腕だけが切れている。吊り革に体重をかけていた中年は、突然支えを失い前のめりに座席に倒れこむ。吊り革には、中年の肘から先だけが前衛芸術のオブジェのようにつかまっている。そして一瞬遅れて座席に降り注ぐ血の雨。まるで消防隊が持っているホースだ。はははっ! スーツの袖口を狂ったように振り回し、乗客たちを真っ赤に染め上げていく。おまえは火を撒き散らす悪魔の消防隊だ! はははっ!

狂想曲が終わると、窓に映る自分の顔に気付く。つりあがった目と、歪んだ口元に気付く。またやってしまった。切らなくていいものを切ってしまった。自戒を込めて自分の体に傷をつける。そうやって出来た700の裂傷がまるで刺青のようだと言われたことがある。そいつも切った。僕の歩んできた道は物言わぬ肉塊が敷き詰められた血の道なのだ。


スティーブン・キング万歳。ディーン・R・クーンツ万歳。



Amazon.co.jpアソシエイト

楽天

MENU

冷麺最新5件の記事

冷麺最新3ヶ月


Amazonトップセラー