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2002年08月27日

他人任せ

このソファに座ると背もたれの角度のせいで意図せず不遜な態度になる。食いたいものも飲みたいものもない。タバコを銜えると間髪入れずにライターの火が差し出される。ますます不遜な態度になる。おまえら勝手に飲み食いしろ。俺は何も口に入れたくねえんだ。いらついてる自分の感情にまっすぐ向き合いたいだけなんだ。

しつこく話し掛けてくる女がいる。言葉の泡が頬に当たって幾分気持ちがざわついたが、すぐまた何も聞こえなくなり見えなくなり、俺は俺と対峙した。何が見たい、何が知りたい、それがわかってたらこんなにいらついてない。じっと感情の波が収まるのを待つしかないんだ。

隣の女がまだ話し掛けてくる。映画がどうとか言ってるようだ。ふん、おまえに映画の何がわかる、と思った瞬間内側に向かって螺旋を描いていた感情が逆転した。外向きになったのだ。女はタランティーノの長回しのセリフには何も込められていないと言った。何もないから意味を見出そうとする自分がいると言った。面白い事を言う女だ。じゃあロドリゲスはどうだ? リンチは? ホドロフスキーは? 俺が考えもしなかった鮮やかな回答を寄越して女は席を立った。別のテーブルに向かう。俺はその後姿を目で追い、女の髪が驚くほど綺麗な事に気付いた。今度来たらエルロイのノワールについて聞いてやろう。映画は見るが本は読まないって事はないだろう。

帰り際に、この店に来た目的を思い出そうとしたが無理だった。自分すらコントロール出来ないって事実には閉口するが、結果としては悪くない。こうやって感情のスイッチを他人任せにして日々暮らしている。それは多分あの女も同じなんだろう。



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