
よう。小さい時に「昆虫博士」なんて親戚連中からおだてられていい気になってた坊主ども、元気か?今でもあの熱き昆虫への思いを持ち続けてるか?俺はもう、とうの昔になくしちまったよ。オニヤンマを発見しても、キボシカミキリを発見しても、心がときめかねえんだよ。悲しいことだな。ま、キボシカミキリに大喜びしてる30過ぎのおっさんの方がどうかしてるけどな。
そんな元昆虫博士の坊主どもに質問だ。なんで俺たちは蝶は好きなのに蛾が嫌いなんだ?なんでバッタは好きなのにカマドウマが嫌いなんだ?なんでカマキリは好きなのにゴキブリが嫌いなんだ?よーく手前の胸に手を当てて考えてみろ。
俺達の好みをもう一度よく考えてみようや。俺達は昆虫の全てが好きだったわけじゃない。思い出せ。草むらで日がな一日虫採りに明け暮れたあの日々を。俺達は元々草むらに棲んでる虫なんか好きじゃなかったんだよ。俺達のフィールドは雑木林の木のてっぺんだったんだ。そう、樹の上は硬い外骨格を持った「甲虫」って呼ばれる種類の虫たちの天下だったな。カブトムシやクワガタムシ、コガネムシやカミキリムシ、こいつらこそが俺達の胸を最も熱く焦がしたんだ。ぐにゃぐにゃやわらけえ幼虫が大好きだったヤツいるか?いたら手ぇあげろ。ん、いないな。薄気味悪い芋虫が、蛹を経て装甲車みたいな硬い殻に覆われる。装甲を開くと美しい透明の羽が現われる。この特撮ヒーローみたいな変身が俺達の憧れだったわけだ。
それに比べたらバッタだのカマキリなんてのは、幼虫の形態からろくすっぽ変態もしないで一人前ぶってる雑魚同然だな。しかも全然体が硬くない。ぐにゃぐにゃだ。うっかり強く持ったらぶにゅっと潰れちまうくらいの脆い体だ。さらに羽が剥き出しってのがみっともない。恥じらいの欠片もねえ。そういう最終兵器は絶体絶命のピンチのときだけ出すのがヒーローってもんだろ。番組開始1分でウルトラマンに変身、肉弾戦すっ飛ばしていきなりスペシウム光線で決着じゃいくら相手が子供でも納得しねえよ。バンダイ製品の不買運動が起こらあ。
さあ、もう気付いただろ。俺達はチョウチョなんていう、ひ弱な昆虫は元々好きじゃなかったんだ。それどころか薄気味悪いくらいに思ってたんだ。それを「昆虫博士」の威信にかけて必死で否定してただけなんだよ。今こそはっきり声に出して言ってみろ。「俺は蛾と同じくらい蝶も嫌いだ」と。真の昆虫狂いはカマドウマもゴキブリも蛾も大好きなはずなんだ。おれたちゃ偽者だったんだよ。偽者だったから情熱を失っちまった。俺達が昆虫を通して思い描き夢見ていたのは、誰よりも強くなってる未来の自分自身だったのさ。
さあ坊主、日が暮れ始めた。今度は虫じゃなくて現実の自分を見るんだ。そして気付け。まだ蛹にすらなっていないおまえに手遅れって言葉はないんだとな。
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