
今回も猛烈に長いよ。微妙にネタバレなところは伏字にしてあるので知りたい人だけ反転して読んでね。アンテナで見ると伏字にならないから注意してね。
マイケル・ナイト・シャマラン監督の新作『サイン』を観てきた。前2作もそうだったが(正確には低予算のデビュー映画があるんだが、それをノーカウントにすると『サイン』は『シックスセンス』『アンブレイカブル』に次ぐ第3作目となる)映画レビューのしづらさは相変わらず。ストーリーやオチになるべく触れずに面白さを伝えるのは至難の技だ。『サイン』を絡めたシャマラン論という感じで語ってみよう。
僕がシャマランの映画作りで最も好んでいる部分は「題材」のピックアップだ。今後も同じ方針で映画を撮るのかはわからないが、3作共通しているのは題材が思いっきりB級という事である。『シックスセンス』では「霊」「超能力」、『アンブレイカブル』では「アメコミヒーロー」「超能力(正確には違うんだがネタバレになるので書けない)」を取り上げ、今回『サイン』では「ミステリーサークル」「宇宙人」を題材にしている。もうこれだけで僕なんかは手放しで大絶賛なんだが、B級ネタをB級のままで終わらせないところがシャマランのすごいところだ。シャマラン自身、「僕が好きなのは、B級映画のモチーフを、A級映画の論理、A級映画のアプローチ、A級映画のスタッフ、そしてA級映画のキャストで作ることだ
」と発言している。このA級映画の論理とアプローチについて少し考えてみたい
B級ネタというのは人の興味を引くには最高の題材だが、扱いを誤ると途端に陳腐なものに成り下がる。例えば超能力や宇宙人を題材とする場合、話のスケールが大きくなりすぎて収拾がつかなくなるというパターンは枚挙に暇がない。『インデペンデンスデイ(以下ID4)』を覚えているだろうか? 真正面から宇宙人の侵略を描くとどうしても話が地球レベルになってしまい、登場人物の存在感が希薄になる。これを無理矢理一人の登場人物に収束させようとすると、「たった一人で地球を救った男」という荒唐無稽で腰砕けな話になるわけだ。まあ、ID4くらい予算をかけて壮大なバカ映画を作るのは、ある意味潔くて面白いとも言えるんだが。
シャマランはこういったスケールの大きさとは無縁の監督である。執拗なまでに視点を狭めて、決して話を拡散させない。たとえ世界が宇宙人に侵略されようとも、カメラが捉えるのは主人公の身の回りだけ。どこで何が起こっているかは主人公の視点からしか見えないのだ。『シックスセンス』は霊が見えてしまう少年と、その少年を救い少年によって救われる男の物語だった。この題材をB級的論理とアプローチで撮ると、「霊が見える事によってこんな事が出来るだろう、こんな事件が起こるだろう」といった具合にどんどん話が拡散していく。いくらでも話をふくらませる事が出来る。観客は何が起きるんだろうと固唾を飲んでスクリーンを注視する。しかし少年は何もしない。事件は起きない。世界に向けてその能力を開かない。あくまでも少年と男の関係性の中でだけ「霊が見える」という題材を扱うのがシャマラン流だ。この手法によってB級ネタは人間ドラマに昇華する。だから面白い。
B級ネタは料理の仕方次第でいかようにも面白くなるのだ。話がシャマランからズレるが、『マトリックス』もこういうB級ネタの扱いが上手かった映画と言えるだろう。劇中少年たちがスプーンを曲げる訓練をしている象徴的シーンがある。あれは超能力という胡散臭いB級ネタを、マトリックスというメタレベルの世界観で合理的に説明した出色のSF的手法だ。現実の世界で超能力者がいるのはリアリティに欠ける。しかしマトリックスという世界観の中では超能力はリアリティを持つのである。
シャマランの場合はこういったB級ネタの合理的説明というものは一切行なわれない。シャマランはSF的視点を持っていないのだ。超能力や霊や宇宙人は、劇中確かに存在するものという前提で世界が構築されている。しかし余りにも卑近な視点でそれが語られるため、観客は一瞬ミスリードされ混乱に陥るのだ。「本当は霊は見えてないんじゃないかな? これは霊じゃないんじゃないかな? それがオチなんじゃないかな?」「宇宙人と見せかけて、実は違う何かなんじゃないかな? こいつの正体は何なんだろう? その正体が映画のオチなんじゃないかな?」しかしこれら観客の疑念は、シャマランによってあっさりと否定される。少年は確かに霊を見、宇宙人は確かに存在しているものとして描かれるのだ。そこで観客は第一のカウンターパンチを受ける。
物語終盤、巧妙に張りめぐらされていた伏線が意味を持ち、錯綜していた時間軸が一本の線となる時、第二のカウンターパンチが襲ってくる。B級ネタという分厚い雲に覆われていた、人間ドラマとしての姿が浮かび上がってくるからだ。それは「夫婦の信頼」であったり、「親子の絆」であったり、「失われた信仰の回復」であったりする。だから面白い。
しかし、『シックスセンス』を基準にしてシャマラン作品を評価する人にとっては『サイン』は面白くないと言われるかもしれない。所謂どんでん返しを期待して観る人達だ。きっと肩透かしを食らうだろう。というわけで、腰砕けのエンディングと酷評された前作『アンブレイカブル』を面白いと思った人だけにオススメする。僕はシャマラン信奉者なので文句なく面白かった。82点。
『サイン』メモ。
■今回初めて知ったのだが、シャマラン監督は3作全てに自ら出演していたんだそうだ。あの、見たまんまインド人がシャマランだったとは……。映画情報とか見てないから監督の顔知らなかったよ。
■メルギブソンの娘役の子がものすごく可愛い。ハーマイオニーとか比じゃない。
■『グラディエーター』の憎まれ王役が素晴らしかったホアキンフェニックス(リバーフェニックスの実弟)もいい味出してる。銀紙帽子が笑える。
■思わせぶりなシーンに様々な解釈を試みるのもシャマラン作品の楽しさ。これはデヴィッドリンチにも通じるね。
次は『インソムニア』といきたい所なんだが、予定なので変更されるかもしれないのだ。シニアなのだ。
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