上映期間ギリギリすべりこみセーフ。旬逃しで申し訳ない。DVD化されたら是非見るように。
■原作小説と映画がともに成功している非常に稀有な例だ。しかも3部作の全てにおいて! これほど幸せな映画化がかつてあっただろうか。いやない。『レッドドラゴン』の原作を読んでから既に18年(!)が経つが、全く古さを感じさせる事もなく、昨日読んだかのように思い出された。『羊たちの沈黙』の時にも原作の再現度の高さと映画としての完成度の高さに驚いたが、『レッドドラゴン』でもその嬉しい驚きを感じることが出来た。至福。ただ、幼少期のトラウマが怪物を作り上げるというパターンは今となってはあまりにも当たり前すぎて拍子抜けかもしれない。ただし、トマス・ハリスがこの小説を書いたのは今から22年前なのだ。こういった典型的犯人像の雛形を作ったのはトマス・ハリスその人だと言っても過言ではない。
■映画『羊たちの沈黙』では原作に多かった犯人側からの描写をほとんど省略して映画的面白さを保っていた(バッファロー・ビルはゴミ同然の扱い 笑)。『レッドドラゴン』ではそれは無理だろうなー、と思っていたのでどのように料理されるのか注目していたが、なかなかの出来栄え。ただ、やはりあくまでもアンソニー・ホプキンスとエドワード・ノートンが主役なので、犯人のダラハイド(レイフ・ファインズ)の描写はあっさりめであった。キレた演技に凄みはあったが、原作はもっと濃い。トマス・ハリスのすばらしさは、その濃さの中にある。3部作全てに言える事だが、やはりその濃さを堪能するためには小説を読むしかない。レクター3部作は是非とも小説、映画の両方を見てもらいたい。クラリスやグレアムの中にも潜む怪物は映画では描ききれない。
■原作者トマス・ハリスの著作はなんと1976年の処女作『ブラックサンデー』とレクター3部作の4冊しかない。恐ろしいほどの寡作家。しかしたったこれだけの著作で食っていけるのだからアメリカの出版業界(?)は懐が深い。常に新刊を連発していないとすぐに忘れ去られてしまう日本の作家が本当に可哀相になる。日本で映画化されても大した儲けにはなりそうにないし……。梅原克文あたりは是非ハリウッドで映画化してもらって、数年に一冊の著作で食っていけるようになってもらいたいものだ。
■『レッドドラゴン』が映画化されるのはこれが2度目。1度目はまだ『羊たちの沈黙』(1989)が公開される前、1986年の事である。これは本当にひどかった。原作で、ダラハイドがパンストを被って犯行に及ぶシーンがあるのだが、それをそのまま映像化してしまっており、まるでドリフのコントを見るようだった。また、レクター博士役の役者には全く知性が感じられず、単なる粗暴犯がせせっこましい監獄に閉じ込められているだけといった感じであった。輝かしいトマス・ハリスの3部作に対する冒涜とも言える大失敗作。歴史から抹殺されるべき。ジョナサン・デミ、リドリー・スコットという大御所の後を継いで、2度目の映画化となるこの作品を大成功させたブレット・ラトナー監督には拍手を送りたい。この人、『ラッシュ・アワー』などでコメディー専門家と思われていた若手監督だ。
■3作通して出演しているのはレクター博士のアンソニー・ホプキンスと、看守バーニーのフランキー・R・フェイソンだけ。嬉しい復帰がチルトン博士のアンソニー・ヒールド(ヤなヤツぶりは健在)。残念だったのはクロフォード役がスコット・グレンからハーヴェイ・カイテルに変わってしまった事だ。犯人逮捕のためには冷徹に部下をこき使うクロフォードに、ハーヴェイ・カイテルはちと似合わない。渋いことは渋いが冷徹なインテリというイメージがないのだ。ただ、クラリスがジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに変わったときほどの(イヤーな)衝撃はないのでOKとしよう。エドワード・ノートンはグレアムのイメージ通り。ところでエドワード・ノートンは日本語が少し話せるのをご存知だろうか? 大阪の水族館(海遊館)建設のために天保山に住んでいたことがあったんだそうだ。どういう経歴の人なんだかさっぱりわからない。
■3部作と言わず、数年に一度はレクター博士に会いたい。こんな魅力的なキャラクターを眠らせてしまうのはあまりにも惜しい。
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