
もうウン十年も昔の話なのでナニソレ状態の人も多いでしょうが、清里という取り立てて何もない高原がもてはやされた時代がありまして、都会暮らしに疲れたサラリーマンが一念発起して、清里でペンションを開業する「脱サラ」というものが社会現象になったことがありました。バブル時代以前の地域限定プチバブルです。今ではかつての栄光は見る影も無くて、朽ち果てたペンションと原宿竹下通りを模した妙にメルヘンな通りが哀れを誘うゴーストタウンと化してるわけなんですが。
で、当時の清里のペンションオーナーには典型的なパターンがあって、それは端的に「ヒゲトーサン」という名前で言い表されるのですけど、山男みたいな髭をたくわえ、オーバーオールを着て、ギターを片手に歌うオーナーです。ペンションでの食事が終わるとこのヒゲトーサンがいきなり登場して「さあみんなで歌おうよ」と迷惑この上ない客いじりを元気良く始めるわけです。脱サラの情熱と、半自給自足の自然派志向が生み出すハイパー健全性。
ネズミの分際で犬を飼ってやがる千葉のネズミに面と向かって唾を吐き、堆く積まれたタバコの吸殻に囲まれ、太陽の光を浴びると脳が溶けてくる非健全的な人間にとってはこういう人物は鬼門です。耐えられません。「さあ一緒に歌おうよ」と言われても死ね死ね団のテーマしか浮かんできません。お願いだから貴方の生き方を押し付けないで! あたしを自由にさせて! あたいはもう走れない! とペンション行った事ないのに思っていたのです僕は。行ったら食事の席につけなくて餓死すると思っていたのです。
で、そういう流れの中で飲食店のメニューが意外と見過ごせないなあと思っていまして、まあギリギリシェフの気まぐれサラダぐらいが限界。「すいません、シェフの……気まぐれ、サ、ラダひとつ」 うわ、やっぱダメだ僕には無理だ。言った瞬間に変な汗が出てくる。とにかく創作料理に無茶な(恥ずかしい)名前をつけることが生きがいみたいな店には入りたくないのです。
で、そういうのは店単位ですよね普通。やばげなオーナーがいる店に近寄らなければいい。店の表に出ているメニューを見て、変な名前があったら立ち去ればいい。でもバーにあるでしょ。カクテルであるでしょ。セックスオンザビーチ。ナニよコレ。日本語に訳したら砂浜青姦ですよ。注文できねっつの。僕が注文できないのはまあいいとして、連れてった女性が嬉々として注文したらどうしてくれるんですか。いてててててて。その瞬間から貝のように押し黙っちゃいますよ僕は。うわ、貝って言っちゃったよ。やべ。
タイムマシンが出来たら時空警察の厳重な警戒を出し抜いて、まずはこのセックスオンザビーチの創作者を殺しますね僕は。
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