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2003年09月29日

見た夢を淡々と記録するよ

僕は新番組のドラマにレギュラー出演が決まっていた。明日から撮影が開始ということで、共演者の人たちにいろいろとお話をうかがった。

「僕、演技経験ないんですけど大丈夫ですかね?」
「平気平気。なんとかなるよ。そう緊張しないで自然体でいればいいから」
「はあ、そんなもんスかねえ」

第1話のラストシーンで僕は登場するのだけど、セリフはない。葬式に駆けつけて、がっくりと膝をつくだけ。気が楽だったので台本も一切読まなかった。だから第1話がどういう話になっているのかも全然わかっていなかった。

撮影当日。本番数十分前になっても僕は一体どういうことをやればいいのかさっぱりわかっていなかった。そろそろ出番だという時になって、衣装がない事に気付いた。葬式なのだから当然喪服を着ていなければいけないのだけど、Tシャツにジーンズの私服しかないのだ。監督から「本番!」の声がかかる。すいません! すいません! 喪服がないんです! 慌ててアシスタントディレクターの人が着ていた黒い服を借りる。ADさんは着ている服を取られて裸だ。僕待ちの時間に監督がイライラしはじめる。

「すいませんでした。ってゆーか普通衣装とかって用意されてるもんなんじゃないですか?」
AD
「ですよねー」
「ですよねーって……。あと、僕、監督から全然演出とか受けてないんですけど、勝手にやっちゃっていいんですか? つーかリハーサルとかないんですか?」
AD
「さあ……? 自分にはよくわからないっス」

本番が始まった。斎場にはたくさんの俳優さんがいて、その間を縫うようにステディカムのカメラマンが動き回っている。ワンシーンワンカットの長回しのようだ。途端に脂汗が出てくる。全然段取りを聞いていない! ステディカムが何秒後にどの位置に来るのかわかっていなければ、演技のしようがない! しかもこのADさんから借りた服はいくら黒いとはいえ明らかに斎場で浮いている! でもやらねばならない。3分くらい経っただろうか? 今から僕は斎場に駆け込んで、がっくりと膝をつくのだ。ステディカムの動きを予測して、ファインダーに収まる位置で演技をしなければならない。もしも失敗したら先輩俳優さんたちの3分間の熱演が水の泡だ。最初から撮り直しになる。

つーかできるかこんなもん! わけわかんねーよ! もう勝手にやらせてもらいますわ。失敗したらそりゃ俺のせいじゃねえ。段取りも知らせずリハもナシで本番やらせる監督が悪い!

おもむろに斎場に入り、きょろきょろと周りを見回す演技をする。カメラがこっちを向いているのかどうかはわからない。つーか知るかそんなもん。正面の遺影に目をやり、静かに膝をついた。目を閉じる。数秒後、共演の松嶋菜々子が膝をついた僕の正面に立ち、立ったまま僕を抱き寄せた。ちょうど松嶋菜々子のお腹のあたりに僕の顔が押し付けられる格好になった。「うぉーーー! こういう段取りだったのかぁああ!」

いい匂いがして温かくて、幸せな気分になった。ちょっといやらしい含み笑いが漏れたのだけど、肩を震わせて泣いているように見えたのでちょうどよかった。


アホか。



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