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2004年10月30日

お葬式

2年半前「肺気腫」を患った祖父が今月の23日に亡くなり、岩手の方に葬式に行ってきた。享年87歳。男でこの年齢なら長生きと言っていい。しかし10年前に失明し、2年半前には肺気腫を患い、苦しみながらの死だったので、大往生という感じでもなかった。

高齢になってから目が見えなくなったものだから、祖父は自分ひとりでは何もできない。24時間つきっきりの介護が必要で、またド田舎なものだから設備や人員の整った病院がなく、祖母に全ての負担がかかってしまう状態だった。祖父は男尊女卑の塊のような暴君で、祖母をまるで奴隷のように扱う。正直祖母としては亡くなってほっとしたという方が大きかったと思う。あのまま何年も辛い介護が続いたら、祖母の方が倒れてしまうか、あるいはもっと最悪の事態が起きかねなかった。そんな事情があって、葬式は湿っぽくもなく、かと言って明るくもなく、誰も口には出さないが「やっと逝ってくれたか」という後ろめたいような複雑な雰囲気に包まれていた。

僕は2回目の経験だったのだが、東北の葬式は東京とは何もかもが違う。他ではどうなのか知らないが、岩手県岩手郡安代町日泥という土地での葬式は実に奇異な風習でいっぱいなのだった。ちょっと記録しておこうと思う。


続き

23日土曜日。前日から岩手に行っていた僕の母から電話があり、祖父が亡くなったとの知らせを受ける。仕事の都合があるのですぐには行けないが、「火葬には立ち会え」と言われる。ここがまずおかしい。普通は告別式に出るべきところだ。

24日日曜日。父が朝早くに岩手に出発する。僕は月曜日の仕事の段取りを一日中やっていた。岩手から電話がある。「26日に焼き場に行く。27日が告別式だ。日にちが近いから両方出なさい」と言われる。焼いてから告別式まで日が開くこともあるのだった。

25日月曜日。11時頃、僕の妹と甥っ子姪っ子、従兄弟2人の総勢6人で岩手に向けて出発した。葬式の段取りは実に不可解だった。まずお通夜というものがない。23日に亡くなってから今日まで、親戚連中は実家に集まってずーっと飲んだくれてはいるのだが、弔問客などは受け付けないのだ。線香を絶やさずにとにかく連日連夜飲み続ける。そして、告別式をやる前に荼毘に付してしまうのだそうだ。この日夜遅くに岩手に到着すると、実家は酔っ払いの溜まり場と化していた。恐がる甥っ子と一緒に死に水を取った。祖父の遺体は87歳とは思えない頑健な体躯で、棺が窮屈そうに見えた。虫歯が一本もなく、全部の歯が生え揃っていたので、変な言い方ではあるが実に立派な死に顔だった。

26日火曜日。実家から車で40分ほどもある焼き場で遺体を荼毘に付す。病気で亡くなった老人の骨というものはボロボロに崩れてしまうらしいが、祖父の骨はしっかりと形を保っていた。骨壷(というか桐箱)に詰めてまた実家に戻る。この日の夜は近所のおばさんが集まって不思議な念仏を唱えた。妙な鳴り物をカンカンと鳴らしながら、「なんむあーみだーんぶつ なむあみだー」と東北特有のズーズー弁で1時間近くも歌う。これは念仏というより正に歌だった。歌詞をよく覚えていないらしく、途中何度も間違えるおばさんがいたり、鳴り物を鳴らすおばさんにリズム感がまったくなかったりで、聴いていると自然に笑いがこみあげてくる。沈鬱な雰囲気が全くない不思議な念仏だった。この念仏を聴きながら、後ろでは親族が大宴会を開いている。

27日水曜日。告別式。実家の大広間で行われた。これはごく普通の葬式だ。坊さんが読経して喪主が挨拶する。唯一違うのは、遺体ではなく遺骨を前に行われるということだった。告別式が終わると、実家から1kmほど離れた墓所まで親族一同が遺骨や遺影、造花、卒塔婆、あとは何の意味があるのかよくわからない龍の意匠の施されたのぼりなどを持って、行進というか行列をする。誰が何を持つかは予め決められていて、一人一人名前を呼ばれて持たされる。この時に、男は幽霊がつけているような白い三角頭巾を頭に付けられ、女は白いリボンを頭に付けられる。幽霊一座のような行列がぞろぞろと歩く姿は、知らない人が見たらぎょっとするに違いないと思った。「まるで昔の映画の1シーンみたいだね」と言っている人もいた。墓所にたどり着くと、墓を開いて遺骨を収めるのだが、いきなり骨壷(というか桐箱)を開けて墓の内部に骨をぶちまけるので驚く。先祖の骨とめちゃめちゃに混じり合って墓に入るのだった。線香をあげて、行列は終了した。このあとさらに寺まで行って会食があるのだが、僕ら孫たちは早々に切り上げて東京に向けて出発した。夜8時、東京に到着。


以前別の親戚が亡くなったときは12月の後半で、行列の時に地吹雪が起こっていて大変だった。次に来る時は祖母の時なんだな、と考えたら少し切なくなった。



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