

どうもこいつの言ってることは全て嘘とは言い切れん部分があるなあ。裏があるのは絶対確実だけど、問題なのはこの賞品が実際に貰えるかどうかだ。そして、その際に何らかの条件がついてくるかどうかだ。「賞品を受け取るのに金は1円も必要ない」って言い切ってるから、これは確かだろう。ここで嘘ついたら完全に詐欺だからな。もうちょっと手の込んだことになってるはずだ。となると、賞品に関して金以外の部分で何か面倒事がありそうなのは、A(2週間クルーズ)とC(1週間ホテル滞在)とD(ファーストクラス航空券)ってことになるな。これは手続きが非常に煩雑になるはずだし、自分の思い通りの日付を選べない可能性が高い。結局貰ったはいいけど使うことが出来ないっていうパターンがありそうだ。しかも自分のところに都合のいいプロモーション活動を延々と引っ張る可能性が高い。狙うはB(250ドル商品券)だ。これなら何のしがらみもなく簡単に使える。今日お土産を買うのにも使えるわけだ。むぅ……。しかしそう簡単にBが当たるかな。一見すると一番金額が安いから当たりやすそうに思えるが、せっかくつかんだカモをみすみす逃すような真似は向こうもすまい。Bは最も当たりにくいだろうなきっと。そして、一番当たりやすいのはCだ。Cに違いない。自社ホテルの閑散期の空き部屋1週間をくれてやれば、向こうの懐はまったく痛まない。AとDも当たる確率は割と低いだろう。俺はワーカホリックたる日本人だから、こういうものをすぐさま利用できないが、能天気な欧米人なら喜んで1ヶ月の休暇とか取って無理矢理行くに違いない。そんなことになったら向こうは丸損だ。(ここまで20秒)
さあ、どうする俺。こんなあからさまなキャッチセールスに乗るのか? プロモーションの1時間の話って、具体的にはどんなものだ? ただ単にホテルを案内されて、「ここはこんなにいいホテルなんですよ。お友達にもクチコミで教えてあげてくださいね」ってそんな甘っちょろいもののはずはないぞ。必ず何らかの商売に結びついてる。だがそれが何であれ、こちらの最終的なカードは「NO」だ。どれだけ言葉巧みにモノを売りつけようとしても、俺には絶対にそれを買わない自信がある。こっちも伊達に営業やってるわけじゃねえ。詐欺師はこの俺だ。おまえらなんかにはぜってえ負けねえ。俺から金を取るなら、銃を突きつける以外にねえぞ。(ここまで10秒)

よし、バリで250ドルはでかい。ここは1%の可能性に賭けて乗ってやろう。B以外が当たったら、そんときは賞品を放棄する。そして、プロモーション活動で何が売りつけられようとも、絶対に首は縦に振らない。霊感でも催眠でも心理操作でもなんでもきやがれ。10人がかりでも俺は負けん。(ここまで5秒)
と、欲に負け、無理くり自分を言いくるめ、行くことにしました。バカですねホント。でも旅行中だと、なんかいろんなタガが緩んでしまって、こういうことのありえなさに対する警戒心が麻痺しちゃうんですよ。本当みんなも気をつけた方がいい。バリで他によくある手口としては、街頭アンケートがポピュラーです。住所や氏名やクレジットカード番号なんていういかにも怪しいものは聞かれません。その代わり、旅はどうでしたか? ホテルはどこに泊まりましたか? 部屋の居心地はどうでしたか? どのランクのお部屋に宿泊されましたか? 差し支えなかったらお部屋の番号教えていただけますか? とか聞かれて、ホテルに戻った夕方になると部屋に電話がかかってくるのです。「アンケートにお答えいただきありがとうございました。プレゼントが当たりました。当選を確定させるためにはこちらに来ていただく必要があります」っていう寸法。行くと”プロモーション”を聞かされるわけです。
そして肝心のプロモーションの中身なんですが、詳細にレポートいたしましょう。転んでもただでは起きんよ。恥を晒してでもネタにするよ。
スピードくじをくれたガイドに連れられて、クラトン・ジンバラン・リゾートというホテルに着きました(タクシー代は宣言どおりタダ)。ホテルのクラスとしてはウェスティンより数段落ちる感じですが、まあ悪くはない。中に入ると、日本人のプロモーション担当の女性が現れ、ガイドから引き継ぎます。宮城県出身(ちょっと訛りがあった)というこの30代の女性、非常に笑顔が優しげです。まずは俺たちの旅の内容を、詮索するというでもなく、世間話的に聞いてきます。これが長い。時間にしてゆうに30分はかかってる。その間ビジネス的な話は一切ナシ。笑顔と親切そのものといった態度でこちらの警戒心を緩めにかかります。

やっとのことで、ホテルの説明が始まりました。豪華スウィートルームなどを案内してくれます。まあ、確かに綺麗ですごいけど、別にこんな部屋に泊まりたいとは思わないなあなどと思っているうちに、なんだか開放的な、それでいて妙にビジネスチックな事務所のようなところに連れて行かれました。来ました、ここが敵の総本山です。周りには俺たちのようにクジに当たった笑顔の当選者たちが群れを成して、それぞれの担当者の話に聞き入っています。つーか当選者多すぎ。全然レアでもなんでもない。これは、くじを渡す係が「こいつらイケそう」と狙ったカップルに、必ず片方が当選するようなくじを2枚づつ配っていたってことですね。そしてここでわかったんですが、宮城っ子たちはこのホテルの社員ではなく、全く別の会社組織がホテルに間借りしてやってたんですね。つまりクラトン・ジンバラン・リゾートには罪はない。ここまでで既に50分。タイムリミットは1時間ですよ!
ここでさらにアンケート開始。ええ〜これどう考えても1時間で終わらないよー。なんなの、もー。と思いつつも、宮城っ子の柔和な笑顔に対してそうそうむげな態度も取れません。辛抱強くアンケートに答えます。年間何回海外旅行に行くか、一回にいくらぐらい使うか、次のうち行ってみたいリゾートはどこか、等々。俺はこの状況を割と楽しんではいたのですが、嫁さんのほうが明らかにムッとし始めてる。腕時計ちらっちら見始めてる。それを察した宮城っ子が、ついにこのプロモーションの核心に迫ることを話し始めました。ここまでで既に1時間半!
で、出てきた話はアレでした。「タイムシェア」ってやつ(参考サイト)。リゾート物件を1週間単位で所有できる権利ね。これを買えと。で、さっきのアンケートに話が戻り、「大体普通は1年に1回、1週間しか海外って行きませんよねー皆さんお忙しいし」「1回に使う金額って、まあ大体20万から30万、多いと40万ということもありますよねー」「そう考えると、毎年は行かないにしても、2年に1回行ったとして、テラヤマさんは20年間で海外旅行に300万円以上は使うという計算になりますよねー」「タイムシェアなら、もっと安く25年間の所有権が買えるんです。これは絶対にお得ですよねー」「し・か・も! 行けない年は、お友達にレンタルすることもできるし、万が一もう海外には行けないということになったら第三者に権利を譲渡したり売却したりもできるんです!」「投機目的はオススメはしてないんですが、1度も行かずに全てレンタルしてお小遣い稼ぎしてる人なんかもいますよー」「とにかく世界○ヵ国、○百ヶ所の一流ホテルのハイクラスな部屋が、格安で使えるんです! 先ほどテラヤマさんが行きたいとおっしゃった国にも提携ホテルがたくさんあります! もちろんこちらのホテルのスウィートも使えますよー」「普通にツアーで行ったり個人旅行を手配するより断然お得なんですよー」
ハイハイ! わかったわかった! わかった上で結論から言うけど、絶対買わないから。ここで宮城っ子、上司のイギリス人マイケルに応援を頼みます。このイギリス人がむっかつくやつで、こっちが全く英語がわからないとタカくくってやがって、説明とかもいい加減そのもの。なんとかこちらの警戒を解いて翻意させようと笑顔をふりまく宮城っ子に対して英語でこんなことを怒鳴りはじめました。「笑ってる場合じゃないだろ! おまえ、これはビジネスだぞ! なんでこいつらが買えないのか、買わないのか、そこをつっこめ。買わないことがいかに間違った選択か教えてやれ! いいか、もう笑うな。これは笑い事じゃない! 絶対この日本人どもに買わせろ!」。
もうね、一言で言うと「ファッキンジャップくらいわかるよバカヤロウ!」って話ですよこっちにしたら。感じわるー。サイテー。客を目の前にして、部下への罵倒。しかも客のことナメきって、英語もわからない白痴のカモとしか思ってませんからね。なんなんですかこのバカ白人は。なんか楽しくキャッチセールスを受けてたのが、一気に白けました。そろそろ潮時だ。って時計見たらとっくに2時間経ってる! 話違う! さっさと賞品貰って帰らないとお土産買う時間がなくなる!
「えーとすいません。そろそろタイムリミットなんで、俺ら帰りますね。すいませんが俺自身もセールスマンなんで、売る側の考え方はわかります。この場で決めさせたいわけですよね? でも隔離された状況での一方的な情報だけでモノを買うってことは絶対しません。必ず他と比較して、自分からプルした情報を元に判断します。プッシュ型の情報はほとんど信用してしません。タイムシェアは知ってますけど、こういうの、他にもあるじゃないですか。こういうものが欲しいと思ったら、他と比べて自分で納得がいったものを買いますよ。だから絶対にこの場で購入を決定することはありません」

ここで完全に勝負アリで、宮城っ子は苦笑いであきらめてくれました。マイケルのクソヤロウは頭に血ぃ昇らせてましたけど。で、賞品、賞品! 宮城っ子「どれが一番当たりやすいと思いますか?」俺「Cでしょ? もしかしたらCしか当たらないようになってるかも」宮城っ子「アハハ、よくわかりますね。皆さん大体金額の一番安いBが当たりやすいだろうっておっしゃるんですけど……。正解です。でも一応どれも当たる確率はゼロではないんですよ。一番当たりにくいのはBです」俺「やっぱり……」。そしてスクラッチカードを削ると案の定Cが出てきました。「あ、じゃあこの賞品はいりません。放棄します」「え、えええ!? これは本当に貰えるんですよ? もったいないですよ! これは詐欺なんかじゃなく本当に本当ですよ。もうテラヤマさんに購入の意思が全くないことはわかってますから、私もこれ以上何かを売りつけるようなことはしません」「ええ、そうなのかもしれませんけど、いろいろと手続きがめんどくさいのも確かなんで」「そうですか……。最近日本人の皆さんは警戒心が強くて、せっかくの賞品を持って帰らない人も多いんです。あと、世間話では皆さん楽しそうにお話されるのに、タイムシェアのシステムを話し始めた瞬間にさーっと顔色が変わる人も多いですね……」「そうですかー。てゆーかもうインターネットにあふれてる情報のせいで、こういう商売のやり方は立ちゆかなくなってるんじゃないですか? 宮城っ子さんもあんなマイケルみたいないけすかないヤツにへこへこすんの辛いでしょ」「はあ……」
そんな感じで宮城っ子を逆に励ましつつ、タクシーを呼んでもらいました。帰りのタクシーも宣言どおりちゃんとタダです。「ちなみに、最後まで宮城っ子さんは会員権の値段言ってませんでしたけど、ぶっちゃけいくらなんですか? 250万から300万くらいかなって俺は思ったんですけど」「そんなにしませんよ! 200万しません。それくらいじゃないと20代の人には手が出ませんから。この商売、ターゲットは20代30代なんです。ご高齢の方はお金持ってますけど、こんな会員権買わなくてももっとお金出していい旅行が出来るって言われちゃうんです」「そうですか。あ、タクシー来た。それじゃ、宮城っ子さん、マイケルに負けないで頑張ってね」「はい、テラヤマさんもお元気で」
丸々3時間無駄になったよ! 3時間あったらウブド行けたよ! やっぱりオイシイ話なんて、転がってるもんじゃありません。欲をかいたら、ダメ、絶対! これからまたクタに戻ってお土産探しです。
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